Outline of Annual Research Achievements |
金融政策を含む経済政策が経済成長に与える影響について定性・定量両面から分析を行った. 特に, エビデンスに立脚し, 研究開発(R&D)投資を行う企業が, 投資の際に現金を保有している必要があるという, いわゆる cash-in-advance (CIA) 制約を仮定することで, インフレーションの長期的な経済効果を, イノベーションに基づく内生定期市長モデルの枠組みで分析した. 大きく2つの成果がある. 1つは, シュンペーター流の金融成長モデルの枠組みを用いて, インフレと失業の長期的な関係を分析した. 重要な仮定は, 労働市場の摩擦の存在である. 結果は, R&D投資へのCIA制約の下で, インフレ率の上昇は, 経済成長率の低下と失業率の上昇をもたらす. 対して消費へのCIA制約の下では, インフレ率の上昇は, 逆に失業率を低下させる. 米国と欧州圏のデータにモデルをカリブレート, インフレと失業に対する定量的な分析も行った. もう1つは, 最低賃金制度に関するもので, 最低賃金のイノベーションへの効果は, 企業タイプによって異なることを明らかにした. 具体的に, 最低賃金を引き上げると, 国内生産の投入物を使用する企業のイノベーションは減少するが, 外国製の輸入投入物を利用する企業のイノベーションは増加する. この結果を, 中国の最低賃金と特許に関するデータを使用して実証的にテストした.
これらは国際的に定評のある査読付き学術雑誌に掲載されている. 加えて, 本研究計画の発展に新たな方向性をもたらすような新たな研究も始まりつつある. 以上の研究成果の大部分は, 所期の計画通り, 国際共同研究に基づいている. 共同研究先は, リバプール大学(イギリス), 復旦大学(中国), ザンクトガレン大学(スイス), 中国文化大学(台湾)などが含まれる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
まず、本研究課題の所期の目標は達成されている. なぜならば, 本研究計画の中心テーマに直接関連する研究成果が、すでに4本の論文として, 国際的に十分な定評を持つ査読付き学術雑誌に公刊/受理されているからである (Economic Inquiry, Journal of Money, Credit, and Banking, Review of Economic Dynamics, Scandinavian Journal of Economics). そのうえ, 当プロジェクトの今後の発展性に関わる実証研究結果も, 国際的な査読付き英文雑誌に公刊した点も勘案すれば, 当初の計画を越えて, 本プロジェクトは発展しつづけているといっても差し支えないと思われる. また, 本研究課題は, 当初の予定通り国際研究協力・国際共同研究に明確に立脚しながら進めてきた. この点についても, 計画以上の進展を見せているといってよい.
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き, 金融政策の効果に関する定性・定量分析を勧めつつ, 本プロジェクトを進めていく中で新たに浮かび上がってきた要因(最低賃金, 失業, 格差, 国民性など)についても, 分析を行っていく. 方針はこれまでと変わらず, 国際研究協力に立脚しつつ, 分析の精緻化, 論文の構成や表現の推敲, 各方面への周知を徹底し, より定評のある査読付き雑誌への公刊を目指していく.
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Causes of Carryover |
世界的なコロナウィルスパンデミックによって, 当初計画していた共同研究打ち合わせのための海外出張, 共同研究者の招聘ができなかったため, 次年度使用額が発生している. 使用計画は, パンデミックの状況を見極めつつ, 可能であれば, 従来計画していた共同研究打ち合わせに主に支出する計画である. その他, 今後投稿予定の原稿がいくつか仕上がってきたので, 英文校閲量と, すでに公刊された本プロジェクトの研究成果のオープンアクセス化などに利用する. なお, 研究に必要な (トナーなどの) 消耗品や (Mathematica や Scientific Workplace などの) 数値計算・論文執筆ソフトの購入も行う.
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