2018 Fiscal Year Research-status Report
経済学において「共感」概念が果たす役割に関する学史的研究
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18K01531
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
堂目 卓生 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (70202207)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アダム・スミス / 共感 / 競争 / 見えざる手 / 貿易 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、スミスの「共感」概念を再考した。具体的には、『道徳感情論』と『国富論』、『法学講義』、『修辞学・文学講義』、『哲学論集』において展開されるスミスの「共感」概念を整理し、特に「個人の共感はどの範囲にまで及びうるとスミスは考えていたか」、「国の枠を越えることができると考えていたか」という問題に対する答えを検討した。 その結果、スミスが構想した社会は、共感による統合原理を土台として、社会の中で能力と機会に恵まれた人びとが富や地位を目指して競争する社会であること、ただし、競争といってもルール無用の競争ではなく、競争者一人一人が胸中の公平な観察者の声にしたがって正義と道徳を守った上でなされるフェアな競争でり、そのときはじめて「見えざる手」が機能し、社会の繁栄が実現し、その恩恵が仕事や雇用になって競争に参加できなかった人々にまで届くというものであることが分かった。 また、スミスは国と国が平和共存するためには、相互交流を通じて、共感の範囲を拡げ、両国に共通の公平な観察者、つまり、どの国の慣習や伝統にも染まっていない、人類共通の「開かれた公平な観察者」を見いださなくてはならないと考えた。そして国家が介入しない、つまり国益を優先しない自由な貿易こそ国民間の相互交流を促す有力な手段だと考えた。国民と国民をつなぐ富、それがまさしくWealth of Nationsというタイトルに込められた意味だと言える。 このような観点からWealth of Nations を解釈した研究はまだなく、国際的に見ても独創的な研究になり得ると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画調書に記載された通りに文献を読解することができ、また、スミスの共感概念について、明確な説明ができるようになった。2次的文献についても、たとえば、R. P. Hanley ed., Adam Smith: His Life, Thought, and Legacy (Princeton and Oxford: Princeton University Press, 2016), C. J. Berry, M. P. Paganelli and C. Smith eds, The Oxford Handbook of Adam Smith, (Oxford: Oxford University Press, 2013), K. Haakonssen, ed., The Cambridge Companion to Adam Smith (Cambridge: Cambridge University Press, 2006) などを検討し、最近の研究動向も踏まえることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度(2019年度)は、ミルにおける「共感」概念を検討する。ミルはジェレミー・ベンサムの功利主義(最大多数の最大幸福原理)を引き継いだが、個人はより質の高い快楽を求めるべきだと考え、社会は個人が自分の性格に応じて、さまざまな快楽を自由に追求することを許し、支援すべきだと論じたが、このような功利主義的、自由主義的なミルの考え方が、どのような「共感」概念にもとづいていたかを検討する。特に、ミルの概念がスミスの概念とどこが違うのか――共感の質の問題なのか、及ぶ範囲の問題なのか――を明らかにする。研究は、『経済学原理』(1848)、『自由論』(1859)、「功利主義論」(1861)など、ミルの著作の読解とミルに関する近年の研究成果を踏まえながら進める予定である。
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Causes of Carryover |
平成30年度は、書籍の購入や原稿の英訳などが主な支出となり、人件費や謝金などへの支出なかかったために 次年度使用額が生じた。金額は大きくはなく、平成31年度中に執行可能と考える。書籍の購入、旅費などとして支出する予定である。
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