2019 Fiscal Year Research-status Report
L.ロビンズの選択理論とアノマリーを巡る20世紀初頭の経済学の再考
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18K01532
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Research Institution | Shobi University |
Principal Investigator |
田中 啓太 尚美学園大学, 総合政策学部, 講師(移行) (50648095)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 経済学史 / L. Robbins / 合理性 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、L.ロビンズの方法論的特徴について『経済学の本質と意義』を中心に検討した。 ロビンズは、経済学の稀少性定義として知られる個人行動のモデルを2つの仮定から導いている。これに加えて、経済学の領域問題に関わる諸仮定が別に置かれているが、従来の研究では特別区別されてこなかった。これに対し本研究は、ロビンズの用いる仮定を基本仮定と副次的な仮定の2つに区別し整理した。 主要な仮定は、主にロビンズの稀少性定義が含意するものであり、経験的に自明とされる人間行動の様子を表している。他方で、副次的な仮定は、人間行動の一般的な特徴ではなくとも、経済分析において第一次近似としての人間行動を分析する上で用いられる。こうした仮定の区別から、ロビンズの方法論的立場は、理論と仮定を1対1の対応関係でみるF.フリードマンの立場よりも、3つの仮定の種類を指摘したA.マスグレーブの立場に近いと言える。 基本仮定と副次的な仮定の区別に着目すると、ロビンズの経済学と経済政策を巡る2つの領域について、例えば後者は効用の個人間比較の仮定を副次的な仮定として用るという形で説明することが出来る。本研究計画は、ロビンズの方法論的な射程を明示しようとするが、この2つの仮定の区別によって、ロビンズの経済学には、純粋経済学としての側面や倫理的価値判断を含むモラルサイエンスとしての経済学としての側面が浮かび上がる。 以上の研究内容については、2020年3月に論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題のテーマであるロビンズの経済学方法論の射程について、仮定に着目した分析を行うことが出来た。論文に加え、予定していた国内資料調査(2019年9月 関西学院大学)および海外資料調査(2020年2月~3月)も計画通りに実施することが出来た。 調査結果についての報告は2020年度に学会報告(経済学史学会第84回大会)をエントリーしており、順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
資料調査も踏まえ、ロビンズとパレートの関係を再検討する。一般的に純粋経済学の一派に位置付けられるパレートだが、彼は純粋経済学に見られる合理的行動のモデル「論理的行為」の類型は、人間行動としては例外的であることを指摘している。合理的ではない「非論理的行為」が経済社会における一般的な人間行動の類型であり、そうした非合理性を取り扱うためにパレートは社会学の領域を考えた。こうしたパレートの側面は、現代経済学からは非合理的行動と見なされる一部の行動をも稀少性定義に含めていたロビンズとの類似性が考えられる。以上の点を中心に、本研究計画にある国内および海外資料調査も予定している。 ただし、コロナウィルスの状況により、国内の調査や特に渡航調査について実施できない可能性がある。現時点では不透明であり、状況を見て適宜判断する。
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Causes of Carryover |
前年度から調査済みの資料の精読に尽力しており、また追加的な学内業務も生じていたため物品費としての資料購入に至らなかった。また当該年度において消耗品については補充の必要が無いと判断した。資料購入や消耗品補充については次年度に予定している。
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Research Products
(1 results)