2020 Fiscal Year Research-status Report
L.ロビンズの選択理論とアノマリーを巡る20世紀初頭の経済学の再考
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18K01532
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Research Institution | Shobi University |
Principal Investigator |
田中 啓太 尚美学園大学, 総合政策学部, 講師(移行) (50648095)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 経済学史 / L.ロビンズ / P. H. ウィックスティード |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の研究を踏まえて、本研究課題のテーマである主流派経済学からみた合理性と非合理性について、ロビンズとパレートを対比して検討した。純粋経済学の側面で取り上げられることの多いパレートは、純粋経済学の合理的行動のモデル「論理的行為」の類型は現実的には例外的な行動様式であることを指摘していた。パレートの「非論理的行為」は、経済社会における一般的な人間行動の類型であり、そうした非合理性を取り扱うためにパレートは社会学の領域を考えた。こうしたパレートの側面は、現代経済学からは非合理的行動と見なされる一部の行動をも稀少性定義に含めていたロビンズと類似すると考えられる。 両者の共通点は、純粋経済学で捉える合理的側面を第1次の近似として経済学の領域に取り込んでいたことと、非合理的側面が現実の人間行動の主要な側面だという認識である。これに対して、両者の相違点は、非合理的行動を対象とする学問領域をパレートは社会学に求めていたのに対し、ロビンズはそれをも経済学の対象としていた点にある。 また、ロビンズにおける経済学の合理性と非合理性の枠組みは、前年度の研究成果で明らかにした仮定の利用法で説明することができる。矛盾する選好体系などの非合理的な側面を包含するように構築された彼の希少性定義の経済学は「主要な仮定」で構成され、他方の経済人モデルで表現される合理的な側面は「副次的な仮定」によって前提とされる。従来の理解とは異なり、本研究はロビンズの学問的射程が非合理的な側面に大きく及ぶことを明らかにした。 以上の研究成果は経済学史学会第84回大会で報告した。参加者より得られた有益な示唆については今後の研究に活かしていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染症による影響で、本研究はやや遅れていると評価する。 最も大きな影響は、研究計画にある海外渡航調査の中止である。研究の性質上、本年度もイギリス・LSEにおけるロビンズ等の草稿資料収集を予定していたが、現地の貴重書室が閉室状態であったこと、万全な感染対策を踏まえた渡英が現実的ではなかったため、本年度における渡航調査は中止せざるを得なかった。 また同感染症の影響による本務校における業務の増加、授業負担の増大も無視できるものではない。感染状況に対して流動的な学務を求められるため日常業務負担は増加している。また、特に入国できない(または入国を不安視する)留学生を中心に、対面型とオンライン型を並行するハイブリッド型の授業対応を求められている。 以上を踏まえて、本研究は研究期間の延期を申請し、2021年度も研究を継続することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度はこれまでの研究成果を踏まえて、ロビンズやウィックスティードの選択理論と非合理性との関連を検討する論文を執筆中である。また、前年度の成果であるロビンズとパレートについても改めて論文としてまとめる計画である。 なお渡英調査については情勢を見ながら検討するが、年度末までに感染状況が国際的に改善しない可能性も十分に見込まれる。次年度も渡航調査が実施できない可能性も考慮し、当面は国内の資料収集を重点的に行う形に切り替える。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が大きく生じている理由は、新型コロナウィルス感染症の影響によりイギリス・LSEでの草稿資料収集が実施できず、海外旅費として計上していたものが使用できなくなったことである。また、次年度は研究期間の延長をしている。
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Research Products
(1 results)