2021 Fiscal Year Research-status Report
L.ロビンズの選択理論とアノマリーを巡る20世紀初頭の経済学の再考
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18K01532
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Research Institution | Shobi University |
Principal Investigator |
田中 啓太 尚美学園大学, 総合政策学部, 講師(移行) (50648095)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 経済学史 / L.ロビンズ / V.パレート / P.H.ウィックスティード |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、研究計画書に記載されている通り、L. ロビンズと個人行動の非合理性との関係性を明らかにすることを試みた。具体的には、本研究の主題である20世紀初頭の個人行動モデルとしてロビンズとパレートの合理的行動の概念を整理し、20世紀半ば以降に生じた行動経済学の枠組みの基礎であるH. サイモンの言説と比較検討した。 その結果、H.サイモンが重視する限定合理的に行動する人間像とロビンズ、パレートの想定する人間像には共通点がみられることが明らかになった。サイモンは、それまでの主流派経済学に見られる合理的経済人の問題点として利己的な効用極大化傾向、完全知識、選択肢間における推移律の前提を問題視し、いわば合理性の基準を弱める限定合理的な「行動モデル」を示した。他方で、パレートは、1900年代前後に基数的効用理論から序数的効用理論へ転換したと言われるが、この期間におけるB.クローチェとの論争の一つが選考順序に関するものであった。転換前のパレートは確かに経済人モデルを指示する立場にあるが、同時に限界効用の測定は困難であるとの見解も示し、結局のところ経済人モデルは現実の近似にすぎないとする。この後、パレートは経済人モデルとは対比される「非論理的行為」の類型が主軸となる社会学の領域を見出していくが、純粋経済学の方法的前提に対しては慎重な姿勢が見られる。 このことから、サイモンの限定合理性のアプローチの萌芽は20世紀初頭の経済学の選択理論の中に見られることが分かる。またサイモンは社会的行為の議論において弱い利他主義の意義を指摘している。このことは、パレートの非論理的行為や利他主義などあらゆる動機を含めようとしたロビンズの人間像にも関係しうると考えられる。この点についてはさらなる研究が必要だが、本研究課題である選択理論とアノマリーの関係性の一端については明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染症の影響もあり本研究はやや遅れている。 最大の要因は研究計画で予定していたイギリスLSEでの一次資料調査が実施できなかった点である。本務校での業務なども踏まえて総合的に判断すると、現時点のような感染拡大状況では渡英調査を断念せざるを得なかった。最終的に本研究は渡英調査から国内での資料収集に切り替えることとした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画の期間内での渡英調査は断念し、国内の研究書等の重要文献を収集することに切り替えることとした。研究の最終年度としては、ロビンズとパレート、ロビンズとウィックスティードの位置づけを整理した上で20世紀初頭の選択理論の展開について検討する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額について、新型コロナウィルス感染症の影響によりイギリス・LSEでの草稿資料収集が実施できず、海外旅費として計上していた部分が大きく残っている。本研究計画は次年度へ研究期間を延長しており、資料等の収集費に当てる。
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Research Products
(1 results)