2018 Fiscal Year Research-status Report
Incentive Mechanism and Structural Estimation of Demand for Car Ownership and Utilization in Non-urbanized Areas
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18K01562
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小西 祥文 筑波大学, システム情報系, 准教授 (40597655)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ライドシェア / 非都市部交通 / 構造推定 / 実証ミクロ経済学 / シェアリング・エコノミー |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度には、三つの主要な(中間的)研究成果を得た.文字数制限により、最も重要な成果に関してのみ記載する.本研究の目的の一つは、離散連続選択モデルを大規模な家計調査データに応用することで、非都市部の自動車保有・利用需要の構造解析を行うことにあった.しかし、同モデルの推定には、(a)複数の車を保有する家計の逐次的選択の間に介在する(観察不可能な)需要要因の相関、(b)保有に関する離散選択と利用に関する連続選択との間に介在する需要要因の相関、(c)地域レベルの交通密度を表す変数と車種属性の間に介在する需要要因の相関、という三つの重要かつ対処が困難な内生問題が存在する.(a)に関しては Gentzko(AER,2007)のポートフォリオ・モデルを、(b)に関しては Dahl(ECTA, 2002)の制御関数法を、(c)に関しては過去の交通密度情報を利用した制御変数法を、それぞれ使用する事で対処した.(a)のポートフォリオ・モデルは、これまで離散連続選択問題の文脈で考慮されることが無かったため、理論的に整合的な計量モデルを構築し推定する作業に多くの時間が必要であった.約10万人の回答者に各々に対して、約150程度の車種ポートフォリオの組合わせが存在する離散選択モデルの最尤法推定であるため、1回の推定に約3~5時間程度の時間を要した.推定結果は良好であり、(a)~(c)の手法は、使用しなかった場合と比べ、パラメター推定値の符号・大きさ・有意性およびモデルの予測精度の改善に繋がったばかりで無く、「軽自動車の価格弾力性が普通乗用車よりも低い」という過去の非直観的な実証結果を説明するような推定結果が得られた.即ち、非都市部に住む所得の低い消費者が、都市部に住む所得の高い消費者に比べて高い走行需要を持ち、燃費効率の良い軽自動車を(非弾力的に)需要していることが推定結果から明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した当初の研究計画では、I. データセットの整備、II. 離散連続選択モデルの推定、の二つの作業を2018年度に行う予定であったが、いずれも概ね順調に進んでいる.しかし、(i)当初想定していたよりも推定モデルを拡張したため、推定に要する時間が大幅に増加したこと、(ii)データ整備の過程で複数のデータセット間の結合に不備が生じたこと、(iii)既往研究を読み込む過程で新たな変数の必要性が明らかとなったこと、等から、I. II.いずれに関しても十全と言える状態とはなっておらず、2019年度も引き続きこれらの作業を継続する予定である.一方で、2019年度に行う予定であった III.インセンティブ政策の設計に関しては、データ整備を行う傍ら前倒しで進めており、既に暫定的な結果を得られている.また、交付期間中の実施が未定となっていたライドシェア市場に関わる実証研究に関しては、茨城県筑西市における離散選択実験手法を用いた調査研究を行う見込みとなり、交付期間中の実施に向けて準備を進めている.以上より、概ね当初計画通り順調に進んでいると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度には、引き続きデータ整備・加工と離散連続モデル推定の精緻化を進める一方で、当初予定であった、(1)インセンティブ政策の効果推計と(2)仮想的ライドシェア需給の構造解析に向けた準備を行う予定である.また、前年度に引き続き実証ミクロ経済学セミナーを開催し、本研究の知識基盤に資するような研究会を開催する予定である(ミネソタ大学の P. Glewwe氏、ブリティッシュ・コロンビア大学の S. Gulati氏と W. Antweiler氏に対して招聘打診中).以下、(1)(2)に関する詳細を記載する. (1)インセンティブ政策の効果推計:当初予定では、Konishi-Zhao(JAERE, 2017)による最適化手法を応用し、地域属性に応じたインセンティブ政策の最適化を行う予定であった.しかし、2018年度に行った推計結果から、そのような政策設計が必ずしも最善で無いことが明らかになって来た.そこで、ハイブリッド車のように環境性能は高いが高額であるようなエコカーの共同保有を、シェアリング・プラットフォームの拡充によって促進するような政策を対案として考えている.2019年度には、推定された離散連続モデルを使って、反実仮想的カーシェア導入の政策効果の推計を行う. (2)仮想的ライドシェア需給の構造解析に向けた準備:当初予定では、構造推定手法を応用することで、推定された離散連続モデルから間接的にライドシェアの潜在的需給を導出する予定であった.しかし、本学と関係のある茨城県筑西市の協力で、家計調査に模した離散選択実験を行える見込みとなり、これによって潜在的需給をより直接的に推定出来ること見込みとなった.2019年度には、同実験に向け、デザイン、資金調整、倫理審査等の準備を行う予定である.
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Causes of Carryover |
交付申請書に記載の通り、本研究の遂行には、週20時間程度勤務が可能な研究補助者の雇用が必要不可欠であった.しかし、交付決定後に、研究補助者の募集を始めたことから、雇用のスタートが大幅に遅れたことにより、使用額が当初予定を大幅に下回った.一部は、当初予定していなかったデータセットの購入に充当したが、約20万円程度が繰越となった.繰越額は、研究補助者の雇用増分へと充当する予定である.また、もし予定通り海外研究者の招聘となった場合には、見込み額を大幅に上回る可能性もあるため、そちらへの充当分として一部留保しておく.
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