2019 Fiscal Year Research-status Report
Macroeconomic Analysis of a Sharing Economy: Theory and Policy Implications
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18K01569
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
中村 保 神戸大学, 経済学研究科, 教授 (00237413)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | シェアリングエコノミー / 動学的一般均衡 / 技術進歩 |
Outline of Annual Research Achievements |
Becker(1965)、Horton and Zeckhauser(2016)、Filippas et.al.(2019)などの研究に依拠しながら、初年度に従来のマクロモデルにシェアリングの特徴を組み込んで構築したマクロの静学モデルに関する分析と拡張を進めた。その結果、取引費用そのものではなく、それが取引数量の変化とともにどのように変化するかが、均衡の性質や政策が均衡に及ぼす影響にとって重要であることが分かってきた。また、生産要素の初期賦存量が均衡や政策効果に与える影響も従来のモデルと異なりうることが次第に明確になってきた。しかしそれと同時に、シェアリングの効果だけを捉え、結論の頑健性の高めるためには、静学的なフレームワークではなく、動学的一般均衡を用いた分析が不可欠であることも明らかになった。 そこで動学的一般均衡モデルの構築し分析することを始めた。当初は簡単化のために同じ財が消費にも生産にも使用できると仮定した1部門モデルから出発したが、それではシェアリングの特徴がうまく捉えられないことが分かり、生産財と消費財の2部門からなるモデルの構築を開始するとともに、従来の研究との比較を考慮して技術進歩をモデルに組み込むこととした。2部門モデルに関する知識が不足していたために、基礎的論文の理解から始めたために、現在も他の研究者の協力を得ながら、モデルの構築をしている段階である。また、技術進歩が果たす役割の重要性、生産の増加と人々の効用の増加の違いなどについて、新たな知見が得られる可能性が次第に分かってきたが、さらにモデルを洗練されたものにして分析を精緻化する必要がある。特に、マクロの重要な効果として、シェアリングの進展によって、生産(GDP)は縮小するのに、人々の効用が上昇する可能性があることについてはさらなる検討が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度に予定していて当初計画より若干遅れていた本研究の出発点となる基礎的な文献の収集及びそれらの検討については、理論的研究、特にマクロ経済に関する理論的分析がまだ少ないこともあり、十分であるとは必ずしも言えない。しかし、今後の研究を進める上で必要な段階には達していると判断し、具体的なモデル分析の方に重点を移している。動学的一般均衡モデルを構築するには、そのベースとなる個々の経済主体の行動や市場均衡の特徴を捉えて簡単化する必要がある。シェリングが存在する市場の特徴やそこでの経済主体の行動については、ミクロ的研究がかなり進んできている。これらの最先端の研究成果を取り入れながら研究を進めているが、この面では若干遅れが生じている。 本研究の中心である動学的一般均衡理論を用いた分析については、当初1部門モデルを構築して、技術進歩を考慮しない形でのモデルの構築を行っていた。しかし、技術進歩を含んだ2部門モデルの方がより適切であると考え、モデル構築の考え方と方向性を大幅に変更した。それに伴い、これまでそれほど深く分析したことがない2部門経済の動学的一般均衡モデルに関する研究が必要となり、具体的なモデルの構築・分析については、当初より遅れていると言わざるを得ない。2,3の原型となるモデルは作成したが、構造が複雑で明確な結論を導出し、それに明確な経済学的解釈を与えることができていない。そのために、結果を論文にまとめ学会などで成果発表を行い、そこでの議論を反映させて論文を改訂し、国内あるいは国外の査読学術誌への投稿を始めるという平成31年度中に行う予定だったことがまだできていない。 これらの研究状況を総合的に勘案し、計画2年目の達成度として「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の最終年度である令和2年度は、まず前年度までに完成予定であったシェアリングの特徴をうまく捉えたものとして構築した動学的一般均衡モデルの精緻化をさらに進めなければならない。そして、必要に応じて1部門モデルから2部間モデルにするなどの修正や、技術進歩の効果を加えるなどの改良を行いながら、モデルの詳細な分析を行っていく予定である。そのことを通じて、 (1)シェアリングの存在によって消費者の同時点内の選択行動及び異時点間の最適化行動、特に資本蓄積行動がどのように変化するのか、(2)シェアリングの存在は経済全体の所得(GDP)や経済厚生をどのように変化させるのか、(3)政府がとるべき経済政策がシェアリングよってどのように変化するのか、を可能な限り明らかにしていきたい。 昨年度構築した静学モデルから導出された結論や現在構築・精緻化を進めているモデルについて、それらが暫定的なものであっても、学内外の研究会やセミナーなどから始め国内外の学会でも発表し、出来るだけ多くの研究者の方々からコメントやアドバイスをもらいながら研究を改善していく予定である。残念ながら、報告を予定していた研究集会や学会のいくつかがキャンセルされたが、研究報告の機会をこれからも積極的に見つけていきたい。上述のような分析や研究交流などを通じて得られた結果を論文にまとめ、それらを活用して論文を改訂し、研究計画の最終年度である令和2年度には早い段階で国内あるいは国外の査読学術誌への投稿を開始し、できれば採択にこぎ着けたい。
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Causes of Carryover |
「物品費」について、令和元年度末に購入を予定していたパーソナルコンピュータなどの備品をコロナウィルスの影響などを受けて予定通りに購入できなかった。これらについては令和2年度に支出予定である。 「旅費」に関しては、本務校における業務との関係で資料収集のための出張及び(特に海外の)学会出張ができなかった。これらについては令和2年度中に計画的に実施する予定である。 「その他」に関しては、論文の作成が若干遅れてしまい、令和元年度に支出予定であった英文校閲料及び投稿料を令和2年度に支出することにした。
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