2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K01571
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Research Institution | Tsuda University |
Principal Investigator |
澤木 久之 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (80351865)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 海外投資誘致 / 法人税 / シグナリング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、海外投資を誘致するために途上国などが行う情報発信活動(シグナリング行動)が引き起こす経済学的なインプリケーションを探ることである。 初年度(平成30年度)は最初のステップとして、ある国の労働の質についての情報が国外に知られていないという仮定の下で理論分析を行った。まず準備段階では各国の現実の投資誘致活動について文献等により情報を収集した。その結果、各国、特に発展途上国において投資誘致活動が活発に行われており、実際に投資誘致に役立っている(と多くの為政者が判断している)ことが分かった。同時にゲーム理論のシグナリングモデルについて学術書などにより知見を深めた。 そのうえでHaufler & Wooton (2010) JIE 80, pp. 239-248の考案した基本的な寡占モデルにシグナリング理論を応用した。その結果、主に二つの結果を得た。(1)実際に労働の質の高い国ほど、そのことを海外投資家向けに発信する宣伝活動を活発に行う。(2)この宣伝活動はより大きな投資誘致に結び付く。以上の結論に鑑みると、海外投資誘致活動には意味があるという含意が得られた。ただし、完備情報の場合に比べて誘致活動には必要悪のコストがかかることも分かった。 この結果は、本科研費採択研究の準備段階からある程度得られていた結果だが、本年度は理論の再検証と計算のチェックを行った。そして現実的にも妥当な結論と思われるため、津田塾大学紀要 No. 51 にて公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度(平成30年度)には上記のように「労働の質」と「投資誘致活動」の関係について理論的知見を得ることができた。ただし投資誘致のために途上国などが発信したがる情報は「労働の質」だけにとどまらないため、他の情報、例えば「その途上国における消費需要の旺盛さ」などをシグナルする可能性も追求する必要がある。また上に加えて、こうした「投資誘致活動」と、従来から分析されてきた「減税による投資誘致」の関係も考察する計画である。これは多次元シグナリングの手法によって行う必要があり、初年度に手法を習得する計画だったが、理論的な困難性により若干進捗が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
2年度目(2019年度)以降は、第1に「労働の質以外の情報をシグナルする投資誘致活動」について理論分析を行う。第2に多次元シグナリングの手法を習得し、「投資促進の宣伝活動」と「法人税減税」という二つのシグナリングの関係をみる。さらに可能であればタックスホリデーなどについて理論・実証分析を行う計画である。そのために国会図書館などにおける資料収集、他の研究者との交流、理論手法の習得など分析の準備を行い、理論モデルを構築することによって海外投資促進についての経済学的な知見をさらに得られるよう努めていく。
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Causes of Carryover |
「投資促進の宣伝活動」と「法人税減税」という二つのシグナリングの関係をみるため、初年度は多次元シグナリング理論を習得する予定だった。しかし、一つにはその理論的困難性、もう一つには他の研究者から「理論分析の前に現実の投資誘致活動についての知見を深めること」の重要性が提案されたことにより、計画に若干の遅れが生じている。そのため次年度使用額256,896円が生じた。次年度はこれを使用して、国会図書館などでの資料収集のための国内旅費、文献などを購入するための物品費等に充てる予定である。
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