2018 Fiscal Year Research-status Report
Information gathering activity and the role of media on risky project that may cause severe accidents
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18K01582
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
鳥居 昭夫 中央大学, 経済学部, 教授 (40164066)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 過酷事故 / ニュースメディア / チープトーク / 代弁制 |
Outline of Annual Research Achievements |
当研究課題においては、原子力政策に係る意思決定制度のあり方が、事業者のリスク分析活動を抑制する原因となり得るかという問題を考察するために、モデルを作成・分析し、政策的含意を得ることを目的とする。理論モデルを作成し、過酷事故を起こす可能性のあるプロジェクトに関わるニュース・メディア活動を、事業主体がより積極的にリスク情報を収集するためのインセンティブを与えることになるか否かという観点から評価し、インプリケーションを得ることを目指す。 当年度には、分析モデルを完成・拡張した。分析モデルを精緻化する上で、専門知識を持つエキスパートと専門知識を持たない意思決定主体とのコミュニケーション・ゲームを参考とし、以下に示す2つの点で、ニュース・メディアの役割を検討できるようモデルを再構成した。 第1に、努力に応じて確率的にシグナルを受けるとする前提の導入についての拡張である。発生確率と損害額という2つの要素を持つ事故リスクを対象とし、発生確率はシグナルを得ることができ、損害額については各主体が独自の予想を確信しているとしてモデルを構成した。従来の評価基準に代わるものとして、各人のペイオフをそれぞれ改善する効果を持つ、エージェントのリスク調査に対する努力水準を用いることが有効であることが示された。この立場から、意思決定主体と実行主体の癒着、実行主体となるための贈賄等を報告し、これらを防ぐニュース・メディアの機能が果たす役割を評価できるようになった。 第2は、モデルへの党派性の導入である。現代社会においてはニュース・メディアも党派性を持つことを避けられない。逆に党派性を持つことによって、複数のニュース・メディア間で調査報道を効率化できるという側面もある。しかし、この機能については、エージェントのリスク評価活動を阻害する側面があることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では当該年度においては理論分析を行うためのモデルを完成させることを主たる目標としていた。このモデルはすでに多様な分析に耐えるまでに発展している。このモデルは「過酷事故が起きる可能性のあるプロジェクトの遂行について」と題して南山大学で行われたマーケティング論・産業組織論・ビジネス経済学ワークショップにおいて報告されている。また、モデルを説明する理論論文もほぼ完成しており、そのアブストラクトは国際会議での発表に応募され、審査の結果採択されている。当該国際会議で報告した後、コメントや議論を反映させて最終版として完成させる予定である。一方で、当該年度に予定していた実証研究の準備には当初の予定に比べやや遅れが発生している。ただし、テキスト分析の方法は既に見通しがついているため、十分に2019年度に目標としていた作業を年度末までに完成させることが可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度においては、まず作成した理論論文を国際会議で報告することから始める。この国際会議としては、European Media Management Association 2019 Conference at Limassol (Cyprus) を予定している。すでに報告予定論文は採択されている。この会議で、主にメディア研究の立場からのコメントを得て、さらに議論を進め、理論論文を完成させる。 理論モデルはこの段階で学術誌に投稿する予定であるが、さらにニュース・メディアをも特定の利益を持つ主体としてとらえ、調査報道を行うインセンティブも内生的に決められるようモデルを拡張・発展させる。 さらに、モデル拡張だけではなく実証研究も2019年度から開始する。日本の新聞全国紙を対象として、各紙が立脚している原子力発電に対する報道姿勢の差異の存在を仮定する。まず、この差異の存在を、原子力発電に関わる同一対象の報道についての記事のテキスト解析によって確認する。次に、各報道事例について、原子力発電に対する姿勢の差異と、調査資源の投入との関係について、モデルで予想される仮説を検証する。理論分析の結果から関係は線形ではないと予想されている。この予想を検証することによって、理論モデルの現実妥当性を確認できる。ここで、各紙における調査資源の投入量を推計する指標が重要なポイントとなるが、この指標も各紙のテキストを解析することによって得ることが可能である。 この実証研究を遂行するため、各紙の過去の記事アーカイブデータベース利用契約を結び、実証研究を開始する。実証研究の成果は理論論文の改訂に反映されると共に、実証研究の別の論文としてもまとめられる。2020年度には、理論の第2論文および実証研究の論文を完成させ、国際会議で報告する。
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Causes of Carryover |
進捗の項で説明しているように、理論分析は順調に進んでいるが、実証分析の準備において、若干の遅れが生じている。次年度使用額には、この部分に相当する経費が反映されている。しかしながら、2019年度内にこの部分の計画は十分に実行可能である。具体的には、分析ソフトの導入として用いられる予定である。
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Research Products
(1 results)