2020 Fiscal Year Research-status Report
Information gathering activity and the role of media on risky project that may cause severe accidents
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18K01582
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
鳥居 昭夫 中央大学, 国際経営学部, 教授 (40164066)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 過酷事故 / ニュースメディア / チープトーク / 代弁制 |
Outline of Annual Research Achievements |
当研究課題においては、過酷事故をもたらすかもしれない事業に対するメディアを含む社会の意思決定のあり方が、事業者によるリスク分析活動を抑制する機能を持ち得るかという問題を考察するための理論モデルを作成・分析し、政策的含意を得ることを目的とする。理論モデルは、ニュース・メディアによる報道が事業主体に対してより積極的にリスクに対する調査研究を行うインセンティブを与えることになりえるか否かという観点から評価する。さらに、日本のニュース・メディアの実際の行動を観測することにより、モデルの設定およびインプリケーションの妥当性について検証する。当年度には、分析モデルを修正し一部を公刊した。また、前年度に修正した形で実証研究をすすめ、その実証成果の一部が、国際会議で報告される予定である。本年度に得られた主な結論の一部は以下の通りである。 (1)従来の理論分析では、ニュース・メディア企業の行動について、分析の対象に応じて利益水準と社会におよぼすinfluence とを代替的に選好すると仮定するものの、実証分析においては明示的にとらえられてこなかった。しかし、日本の地方紙の行動分析から、達成される利益水準によってこの選択行動が変化することを考慮する必要があることが示された。 (2)ニュース・メディアの記事選択は、購読者が多いほど購読者の多様な嗜好に対応するために、特定記事への集中が抑制されるという理論モデルの結論が確認された。 (3)記事選択基準は、メディア企業自体の選好と読者層の選好をメディア企業が推測することによる効果とによって影響を受けるという理論的仮説が示されてきたが、日本のニュース・メディアにおいて両者とも存在が確認できる。 いずれも、日本における研究は乏しかったところを補完し、さらにこの分野において新たな研究方向を示すものとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度における本研究プロジェクトの目標は前年までの成果を受けて(1)実証研究部分の国際会議での報告を遂行する、(2)実証研究部分および理論モデル分析の結果を学術誌へ投稿すること、(3)実証研究部分において修正の必要性が確認された分析を遂行し、国際会議での報告を計画することであった。それぞれ最終年度としてこれまでの理論的・実証的な研究の結果を報告刊行することが目指されてきたが、コロナ禍の勃発により(1)の国際会議における報告を順延せざるを得ないこととなった。(2)の学術誌への投稿は国際会議での討論意見聴取等を前提としていたが、この過程を経ずに進めざるを得なかった。具体的には、理論モデルの分析成果のうち、政策的なインプリケーションを持つ部分を刊行した。 また、実証研究の対象として日本の地方紙におけるニュース記事の選択傾向を調査した。その過程で理論モデルにおけるメディアの行動を単線的なものとしてとらえていたが、実際には複層的な構造を持っており、利益水準によってニュース記事の選択行動も変化し得るという結果を得た。そのため、理論モデルを修正する必要があるという結論に至り、モデルについて修正を試みた。修正されたモデルは、これまでのこの分野における論文が仮定していたように、メディア企業が単純な利潤最大化、ないしはinfluence の大きさを含んだ経営者効用の最大化にとどまらず、経営者の立場の利潤志向とメディアの本来の機能とを目指す編集上の選好とを考慮したものとなり、これを実証的にも確認することができた。これらの成果は、2021年に予定している国際会議報告のために準備している論文に反映される。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況において記したように、コロナ禍により研究の進行が一時的に遅滞した部分がある。そのため、科学研究費基金の1年間延長しての継続を申請し認められた。現在、国際会議は10月開催の予定となっている。当面は、この国際会議報告による研究の紹介・意見聴取をもって研究完成し、最終的な成果の刊行を目指す。 特に、2020年度の進捗報告の最後に記したメディアの構造を複層的なものととらえて、メディア企業の記事選択における意思決定の特徴を明示的にとらえた形で理論モデルを修正し、実証分析もそのような構造を前提とした形で組み直すことを目指す必要がある。 方法としては、メディア企業とくに日本の地方新聞においては、歴史的な経緯からファミリービジネスという性格を持つ企業が他の産業に比べて多いことを利用して、ファミリー企業の記事選択行動と一般企業の行動とを比較することを用いる予定である。ファミリー所有の場合、経営陣に株主の意向が反映される傾向があるが、一方で記事選択は編集部門が責任を持つ。そのため、ファミリー所有ではない場合には、経営は編集部出身者によって担われる企業が多いが、ファミリー所有の場合には、一部の例外を除いて経営陣と編集部との距離が大きくなる。この相違を利用して記事選択の複層的構造の効果を明らかにすることができる。こうして確認される性質を理論モデルに反映することを目指す。 国際会議を契機とした議論から分析を深める手段がさらに滞る場合には、各種オンラインを通じた方法で連絡をとり計画を遂行する予定である。また、国内にもこれらメディア分野の研究において、助言を得られる研究者と連絡がついたので、さらに様々な媒介の方法を用いて助言を得て研究を完成させることを目指す。
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Causes of Carryover |
2020年度が最終年度として予定されていたが、報告が採択されていた国際会議が延期されたため、会議への出席に伴う費用支出が実行されなかったと共に、研究者の助言を得て遂行される部分の実証研究に伴う費用の多くも支出されなかった。補助金による研究計画の延伸が認められているので、2021年度秋に予定されている国際会議への出席費用および必要な追加的実証研究に伴う支出として助成金の残額を執行する予定である。この国際会議が最終的に開催されない場合、ないしは参加できない場合には、オンライン等異なる形での研究成果の報告機会、助言を得る機会の可能性を検討し、適切な方法により成果の発信を試みる予定である。
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Research Products
(1 results)