2018 Fiscal Year Research-status Report
インフラ市場融合環境における企業戦略と規制・競争政策の研究
Project/Area Number |
18K01598
|
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
水野 敬三 関西学院大学, 商学部, 教授 (40229703)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀 敬一 関西学院大学, 経済学部, 教授 (50273561)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | インフラ投資・整備 / 企業間提携と競争 / 複数市場 / 需要の不確実性・成長可能性 / 参入阻止 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、電力・都市ガス等のインフラ・ネットワーク産業における市場融合環境に注目し、規制・競争政策がインフラ投資や企業間提携などの企業戦略を通じて市場構造や経済厚生に与える影響を理論モデルにより分析することである。 5月前半から8月中旬まで研究代表者と分担者が(1)企業間提携、(2)リアル・オプションを用いた参入阻止、(3)抱き合わせ販売に関する3種類の既存研究をお互いに紹介し合った。その結果、8月下旬以降、2つの研究論文作成に着手している。 第1の研究論文"Sequential multimarket co-opetition(仮題)"は、複数市場で活動する企業(複数市場企業)と単一市場で活動する企業(単一市場企業)のインフラ整備拡張のための提携誘因を分析した理論モデル研究である。逐次的提携形成の状況を想定して市場での競争環境が企業の提携誘因に与える影響を分析しており、企業間提携によるインフラ整備拡張が進む可能性の分析を試みている。複数市場企業と単一市場企業のどちらが先に提携機会を与えられているかという提携の順番と提携効果の変動が重要な要因である。第2の研究論文"Bundling as a device for entry deterrence(仮題)"は、複数の市場の需要の不確実性と成長可能性が参入阻止戦略手段としての抱き合わせ販売の有効性に与える影響を分析するものである。まず既存企業の抱き合わせ販売が各企業の利潤構造に与える影響を整理した。その後、各市場の需要の不確実性と成長可能性が利潤構造へ与える効果を分析する。現在、2つの研究論文ともに分析途中にある。 また上の2つの研究と並行して、2015年度から3年間継続中の関連研究"Joint ventures and technology adoption"の改訂作業を進め、その学会報告も行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
第1の研究論文は、複数市場企業1社+単一市場企業2社という非常に単純化された理論モデルを組んでおり、逐次的提携形成のすべての提携順番における均衡提携形成の分析は終了した。分析の結果、いかなる提携順番においても(インフラ整備のための費用削減効果に代表される)提携効果が変動しない場合、全体提携が形成されやすいことがわかった。また、複数市場企業が先に提携の機会を持つとき、競争の激しい市場で活動している単一市場企業と提携を先に結んだほうが全体提携が形成されやすいこともわかった。しかし、より詳細な経済政策上の含意および経済厚生分析は未完成である。また様々な規制・競争政策の導入効果についても論じる必要があると考えている。加えて、既存研究との相違点や本研究の独創性をアピールするためには、既存研究の展望も深める必要があると感じている。 第2の研究論文については、抱き合わせ販売が利潤構造にもたらす効果の静学分析の整理を終了している。しかし、需要の不確実性・成長可能性を分析するためのリアルオプション分析への拡張にはまだ着手できていない。複数の各市場における需要の不確実性・成長可能性を分析する際、需要の相関の程度などの要因も重要となり、様々な均衡結果の可能性が発生することが予想される。また規制・競争政策導入の効果の分析にも着手する必要があると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
第1の研究論文の理論モデルは単純であるが、分析の結果得られるインフラ整備における企業間提携に関わる政策上の含意は大きい。このモデルを用いて、接続料金規制・参入規制などの様々な規制・競争政策の効果を論じることができると予想しており、来年度中に分析を完成させたい。 第2の研究論文の喫緊の課題は、複数市場を想定したリアル・オプションモデル分析への拡張である。分析上の技術的困難さは高いが、丁寧に分析を進める覚悟である。また研究代表者と研究分担者で議論をした結果、「現時点では抱き合わせ販売が持つ参入阻止効果だけに注目しているが、実は別の効果もあるのではないか」との推測・アイディアを得た。例えば、抱き合わせ販売を通じて他市場に参入することが消費者の嗜好に関する情報獲得のための一手段になることも考えられる。この点を考慮すると、ライバル企業を先に参入させて、その後自らが抱き合わせ販売で参入するという戦略(参入促進戦略)が有効となる可能性も起こりうる。このような「消費者の嗜好に関する情報の不完備性」を含めて論じると、既存研究との相違点が明確になり、本研究の独創性も高まると考えている。現在、その方向への拡張も模索中である。
|
Causes of Carryover |
本年度の研究代表者の海外出張がポーランド・ドイツ・アイルランドの3か国に渡る3つの学会出張であり、当初計画の出張旅費以上の支出となったため、20万円の前倒し支払請求を行った。他方、研究分担者の出張旅費は当初計画の支出額内であった。そのため、次年度使用額が生じた。 本年度の3つの学会出張は当初計画していた最終年度である2020年度の資料収集・研究動向調査のための出張を前倒ししたものである。よって2020年度に請求する金額は減るものの研究目的の遂行・達成に何ら支障はない。また研究分担者は研究途中成果のための出張を次年度に1回追加して実施する予定である。2019年度の研究実施計画は当初の計画どおり、静学モデル分析の改訂と動学モデル分析の遂行を目的としている。その研究論文を研究会・セミナーで4回報告する予定である。
|