2018 Fiscal Year Research-status Report
Unconventional Monetary Policy: Propagation Mechanism through the Market for the Japanese Government Bonds
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18K01605
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
塩路 悦朗 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (50301180)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 非伝統的金融政策 / 日本国債 / 金融機関 / 日本銀行 / 実証分析 / 国債先物オプション / 財政赤字 / ニュース |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度中は2つの研究テーマにおいて大きな進展が見られた。第1に、国債先物オプション価格データから市場参加者の将来予想を抽出する分析手法を確立させた。第2にStockやWatsonらの「外的操作変数つきベクトル自己回帰」の手法を活用して、政策への将来予想の変化が経済変数にどのような影響を与えるかを分析する枠組みを確立した。 第1の研究テーマは上記データをもとに国債先物に関する日々の「ボラティリティ・スマイル・カーブ」を描く作業が中核である。このカーブは市場参加者が持つ将来の国債価格に関する見通しについて重要な情報を提供してくれる。そしてこのカーブが新たな政策アナウンスメントにどのように反応したかを分析することで、市場参加者の将来予想がどのような影響を受けたかを類推することができる。日本の財政政策に関する論文をこの手法を用いて改訂し、3つの国内学会で報告した。また神戸大学における招待講演(2018年11月)では日本の財政・金融政策のアナウンスメント(例:黒田日銀総裁によるマイナス金利政策の発表)に上記カーブがどのように反応してきたかを図示し、本アプローチの有用性を論じ、参加者からの関心を集めた。 第2の研究テーマは将来の経済政策に関するニュース報道に対する資産市場の反応を「外的操作変数」として利用することで、政策予想の変化がマクロ経済変数に与える効果を推定することに役立てようというものである。この手法を用いて日本の公共投資の効果を推定した論文を1本、原油供給先行きに関する予想の変化が日本のガソリン価格に与える影響を分析した論文を1本、執筆した。現在はこれらの経験を踏まえ、日本の金融政策のアナウンスメントが景気や物価に与える影響に関する分析を準備しているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
日本銀行によるこれまでの量的緩和政策が金融機関の行動に与えてきた影響を分析した論文を国際的英文学術誌であり日本経済研究に関するトップジャーナルであるJournal of the Japanese and International Economiesに採択していただくことができた。これはすでにWEB上では近刊論文として公開されている。本論文は前年度までに作成した原稿に当該年度の研究成果を反映させて改訂を行ったものである。特に先行研究との関連や研究の意義づけについて大幅に加筆修正した。同ジャーナルに採択されたのはこの改訂作業が評価された結果である。 また当該年度中に9回の研究報告もしくは招待講演を行った。この中には2回の国際学会における報告が含まれている。これらの機会に多くの出席者の方々から貴重な助言を得ることができた。これらは今後の研究に取り入れられていくことになる。このほか、第5回一橋大学政策フォーラム(2018年12月3日)でパネリストの1人として日本の金融政策について論じた際や、コロンビア大学におけるJapan Economic Seminar(2019年3月8日)で日本の金融政策と国債市場に関する論文の討論者を務めた際にも、本研究の成果を充分に反映させることで、質の高い議論を展開することができたと自負している。 また、2019年度に向けても、すでに6回の国際コンファレンス(Econometric Societyの欧州大会など)における報告が決定もしくは内定しており、1回の外国大学におけるセミナー報告が決定している。このように、本研究計画の成果はすでに多くの関心を集めつつあり、当初計画よりも速いペースでよい結果が出始めていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでに構築したデータを統計的な手法を用いて分析する。具体的な手順は次の通りである。第1に上記の手法で抽出された市場参加者の国債価格先行き見通しが金融政策に関するニュースやアナウンスメントにどのくらい反応してきたかを定量的に明らかにする。これによってそれぞれのニュースが市場によってどの程度重視されてきたか、またサプライズを持って受け止められたかが明らかになる。これをもとに第2ステップとして、市場がより強く反応したニュースにより大きなウェイトを与える「ニュース指標」を構築する。第3ステップとして同指標を外的操作変数として利用した時系列分析を行う。これにより金融政策に関するニュースがマクロ経済変数や金融関連変数に与える影響を明らかにすることができる。2019年度中に分析結果を草稿にまとめ、研究会・学会での報告に応募する。2020年度にはそこで受けた助言をもとに改定を行い、完成版を国際的学術誌に投稿する。 上記作業と並行して、個別金融機関の財務情報を用いたパネルデータ分析を進める。目的は業態別の国債需要曲線を推定することである。その新規性は国債需要を投資的需要(収益を稼ぐための需要)と制度的需要(規制等の理由による保有分)に分けて把握する点にある。投資的需要は国債金利が市場金利を下回った所でゼロになる、つまり屈折点が存在すると予想される。一方制度的需要は国債金利低下とともに連続的に減少すると考えられる。これらを分けて推定することで日本銀行の国債買い入れの効果が時期とともに変化してきた様子を明らかにできると期待している。2019年度中にデータセットの構築を終えて予備的な分析を行う。2020年度前半に本格的な計量分析を行い、後半に論文にまとめる。このほか、本分析で明らかになった国債需要曲線の非線形性を考慮に入れた新しい時系列分析ができないか、検討中である。
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Causes of Carryover |
データ購入に民間助成金を用いるなど、資金使用の効率化に努めたため。一方で航空運賃をはじめとする旅費が高騰している。また使用するデータセットが膨大になっており、リサーチアシスタントを募って作業の迅速化を図りたい。そこで次年度使用額は2019年度の旅費と人件費・謝金に振り向けることとしたい。
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Research Products
(19 results)