2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K01649
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小原 美紀 大阪大学, 国際公共政策研究科, 教授 (80304046)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 家計生産 / 余暇と家事,労働時間の決定 / 既婚女性の労働供給 / 子供の健康 / 日本の家計行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,日本家計の家事労働の実態を経済学の視点で明らかにすることを目的としている.2018年度は,(1)ワークライフバランス政策の効果検証と,(2)既婚女性の労働供給と家計生産の関係の解明の二つについて,それぞれいくつかの分析を行った. (1)については,まず,職場にワークライフバランスを促進する制度があることで既婚男性は家事時間を増加させるか,その結果,既婚女性は市場労働を増加させることができるかを検証した.主に2000年代の夫婦内の時間配分がわかるパネルデータを用いた分析の結果,職場での諸政策は女性の労働供給を僅かではあるが促進することが示された. (1)については,また,家計生産の中でも健康を作り出す活動に注目し,家庭内での健康投資活動の決定要因を解明した.独自のウェブ調査を行った結果,健康に関する家計生産は時間だけでなく支出も同時に決定しているため両方を捉えた分析を行わなければならないこと,決定要因のうち労働時間の長さが重要な変数であることがわかった. (2)については,大阪府下で独自に行った調査と行政が発表している保育所情報をマージさせたデータに基づき,保育所の利用により既婚女性が労働供給を促進させることを明らかにした.先行研究とは異なり,認可外保育所についても考慮したこと,保育所の提供するサービスによる促進効果の差を捉えたことが新しかった.分析の結果,女性の時間制約を緩和するようなサービスを持つ保育所(たとえば病後保育など)が労働促進効果を持つことが示されており,ここでも,日本の既婚女性が家事労働と市場労働の代替の問題に直面していることが明らかにされた. これらの研究以外にも,2018年度は,既婚女性の労働供給や労働環境が個人の健康状態に与える影響について検証した.いずれの研究でも,女性の働き方が,本人や家族の健康状態に大きくかかわることが示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は,まず分析(1)の「ワークライフバランス政策の効果検証」について,2000年代に日本で進められたワークライフバランス政策が夫婦の時間配分を変えたのかに課する検証を行い,研究会で発表し,論文を完成させた(現在,最終修正をして投稿準備中).
分析(2)の「既婚女性の市場労働供給と家計生産の関係」については,第一に,家計生産として健康に注目して,健康に関する家計生産(健康投資)の決定要因を明らかにした.分析には家庭での余暇時間の使い方と消費の中身を詳細に尋ねた独自ウェブ調査の結果を利用し,研究成果を「余暇への時間・金銭投入に関する一考察」として公表した(阿部・稲倉・小原,『経済研究』(査読有)).分析(2)については,第二に,夫婦間の家事や市場労働時間の配分が妻の健康状態に与える影響を計量分析し,研究成果をSociety of Economics of the Householdの年次大会で報告した.さらに第三として,夫の雇用形態によって妻の時間配分が異なり,結果として家計厚生が変わる可能性の検証も行った.分析結果は「夫の雇用形態と経済厚生」として公表した(小原,『季刊個人研究』(査読無)).
これらに加えて,既婚女性の労働供給の決定要因を明らかにした結果を,「保育所による母親の就労促進効果の再検証」として公表した(小原・中山,APIR報告書(査読無)).また,労働供給を含む母親の行動が子供の健康に与える影響を明らかにした研究成果をいくつか公表した(“Effect of Unemployment on Infant Health” (Kohara, Matsushima and Ohtake, JJIE(査読有)),「妊婦健康診査の公費負担回数増加が健診回数及び低体重出生児割合に与える影響」(松島・小原,『季刊社会保障研究』(査読有)).
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Strategy for Future Research Activity |
分析(1)の「ワークライフバランス政策の効果検証」については,昨年度完成させた論文を国際雑誌に投稿し公刊したい.すでに学会等で報告済みであり,多くの建設的なコメントを得て修正済みである.出来る限り早く投稿したいと考えている. 分析(2)の既婚女性の労働供給と家計生産の関係については,大きく3つの研究成果をまとめたい.第一に,「健康に関する家計生産と市場労働の関係」について,健康投資に関する追加調査を行った(昨年度の調査と合わせられるようにパネル調査として遂行した)ので,昨年度の分析を展開した新たな論文としてまとめ,研究会などで報告したい. 第二に,夫の働き方の変更が妻の働き方を変化させる可能性と,それにより既婚女性の健康状態やその分布が変わる可能性について研究成果をまとめたい.これについては昨年度国際学会等で報告している.得られたコメントに基づき修正を行うこと,複数のデータセットを用いて頑健性を確かめることを進め,学術雑誌に投稿したい. 第三に,母親の子供へのかかわり方(育児という家計生産)が子供の健康状態に与える影響について分析を行い,結果を学会などで報告したい.この分析については,昨年度,日本にある某市より行政データを研究に利用する許可を頂いた.2019年度はこのデータの分析の解析に着手したい. さらに,助成内容には,もう一つの研究課題として「分析(3)日本の家事生産の様子は戦前と戦後で変わってきたのか」が含まれている.2019年度はこれを明らかにできる日記記録の入力と,分析のアウトラインを組み立てたい.日記記録の入力には時間がかかると思われるため,入力作業のうちに先行研究をサーベイし,使えるデータの可能性を考えながら効率的に作業を進めたい.
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Research Products
(15 results)