2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K01673
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
筒井 義郎 甲南大学, 経済学部, 特任教授 (50163845)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山根 承子 近畿大学, 経済学部, 准教授 (40633798)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 不平等回避仮説 / 幸福関数 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は、不平等回避について「所得の低い日本人は平等を好むが、所得の高い人は平等を嫌う」一方、「アメリカ人は所得の低い人はもちろんのこと、所得の高い人も平等を好む」という結果を得た。そして、所得の高い人も平等を好むアメリカ人は、信仰の厚い人であることも明らかにした。 本年度は、この結果をどう解釈するかから出発した。作業仮説は、「所得の高い人は平等を嫌う日本人のほうがはるかに自然である」、そして、「所得の高い人も平等を好むことは、宗教や文化の影響である」の2つである。この問題に接近するために、宗教や各国の歴史的背景がどのように幸福感を決定づけるのか、平等は人々にとってどのように重要な目標なのか、について文献を学んだ。キリスト教と仏教(補足的にイスラム教、ユダヤ教)の教えと、それが現代の経済にどのような影響を与えているかの文献を渉猟した。また、政治哲学において平等とともに、自由、幸福、徳が社会の目標としてどのように考えられてきたかを文献から学んだ。回り道であっても、このことに関する理解が平等と幸福の関係の解明には欠かせないと判断したためである。長い歴史の中で、人類が平等を求めてきたとはいえないという学説が有力であることが分かった。問題は大きく、読むべき文献は膨大で、とても満足な結論には程遠いが、一応の結論をまとめ、12月に神戸大学金融研究会で発表した。 これと並行して、「出生体重によって不平等が生じるか」を、日本、アメリカ、インドのデータを用いて分析した。日本では低出生体重児は成人後の所得、幸福度まで影響がある。アメリカでは低体重児には不利は生じない一方で、高出生体重児の所得、幸福度が低い。インドでは、低出生体重児は不利になる一方で、高出生体重児は所得、幸福度が高いことが分かった。出生体重に由来する不平等は国の所得によって大きく異なることが示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度得た結果は、示唆に富むものであると同時に、本研究課題が前提してきた考えに疑問を投げかけるものであった。われわれは、不平等が小さくなることが望ましいことだと思っていたが、日本の結果は、自分の所得の相対的地位が高くなれば幸福になることを示唆している。そして、血塗られた人類の歴史は、人間の果てなき欲望が競争を生み生活を豊かにする一方で、格差を拡大してきたことを示している。生産性が上がり、人々が豊かになるにつれて格差は小さくなるかとも思われたが、現実には、どのように生活が豊かになっても、消費への欲望は一層高まるばかりで格差や「相対的貧困」は全く解決されそうにない。 こうした問題に気付いたのは、本課題にとって大きな進展であった。本年度は、非常に大きな進展があったといえよう。そして、上述のように、出生体重による不平等の問題について分析を進めたこと、そして、日本とアメリカの平等の考え方の違いの原因として、個人主義・集団主義の違いがあるのではないか、との問題意識にいたったことも重要な進展である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題が、(簡単のため)Bentham流の人々の幸福感の総和を最大にするような所得分配を計算することを目標とする点は変わらない。しかし、それと同時に、個人主義・集団主義といった文化的な違いが、日本、アメリカ、インドといった国の平等の在り方にどのような影響を与えるかについても、分析を加えていきたい。
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Causes of Carryover |
2020年度には、本研究課題において最も費用を要するアンケート調査を予定しており、それに充当する予定である。
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