2020 Fiscal Year Research-status Report
ファイナンス工学における動学的最適化問題と派生証券分析の高度化
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18K01683
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
江上 雅彦 京都大学, 経済学研究科, 教授 (40467395)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 拡散過程 / クレジットリスク / 消失時刻 / CATボンド / 回収不能債権 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はCATボンドの価格付け問題とマルコフ過程の消失時刻における分布の問題に注力した。前者についてはCATボンドの価格変動に対して特定の動学モデルを仮定することなく、純粋に理論的な価格式を用いることとした。これはCATボンドの原資産となる災害による被害総額の関数として価格が決定されるという事実を利用している。被害総額はマルコフ過程の加法的汎関数と仮定することができるため、価格の時系列データから背後にある被害総額の推移を推計する方法を研究した。このアプローチのメリットは、一旦原資産(被害総額)の動きを推計することができれば、より複雑にストラクチャーされたCATボンドであってもその価格を求めることが容易になる点である。つまり複雑なストラクチャーを持つCATボンドに対して、その都度特定のモデルを仮定する必要がないため、より汎用性の高い手法であると言える。 後者はファイナンス工学の観点からすると、企業が倒産した時点(マルコフ過程の消失)における企業価値の分布を求める研究である。これは過年度に行った拡散過程の時間転換に関する研究の応用である。CDSマーケットでクオートされているスプレッドには、当該企業への貸出債権の棄損率が見込まれているはずであるが、その棄損率の分布を具体的に計算するものである。拡散過程の消失時における位置の分布を求めることと考えることもできる。クレジットリスクに関する研究において、理論、実証面ともに倒産時点における企業価値の分布、よって当該企業への貸出債権の棄損率を求めることは大きな課題であり、この分野における一つの貢献となることが期待される。この結果は"A new approach to estimating loss given default"という論文にまとめて投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初設定していた課題については(公表したものを含み)おおむね順調に研究が進んでいるため
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は現在進行中のCATボンドの価格モデルに関する案件を完成させること、令和2年度に完成した企業倒産時点における資産価値の分布に関する論文を国際的査読付きジャーナルにおいて公表することを目的とする。また研究課題の最終年度に当たるため、研究の取りまとめを行いたいと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、世界的に感染症が拡大したため予定していた国際学会が令和2年度中の開催が見送られたことが主な原因である。引き続き国際学会の対面での開催は難しいと考えられるが、令和3年度は最終年度となるため、これまでの研究の整理や今後の展望を考える計画するために必要な物品の購入を含めて使用することを考えている。
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Research Products
(2 results)