2018 Fiscal Year Research-status Report
金融政策のリスク資産に対する非対称的な経済波及効果に関する実証研究
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18K01688
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
小野 貞幸 広島大学, 社会科学研究科, 准教授 (80602002)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 株式市場 / 金融政策 / 量的緩和政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究は米国市場における金融政策の株式収益率に対する影響を実証研究した。金融政策として金利政策と量的緩和政策を考慮し、政策変数としてそれぞれフェデラルファンド金利と中央銀行が所有する全資産額を用いた。米国では金利政策が主要な金融政策であったが、金融危機後の2008年11月25日から量的緩和策を開始した。そのためデータ・サンプル期間を2008年11月26日から始め最新の観測値が得られる2019年3月27日までとした。サンプル期間が約10年と比較的短いため実証で用いる変数すべてにおいて最も可能な短い頻度である週次のデータを使用しサンプル数を可能な限り多くした。
米国市場リターンと金利政策の関係を研究したBernanke and Kuttner (2005)の実証方法を応用し、フェデラルファンド金利そして本研究では量的緩和政策を定量化する変数として連邦準備理事会が所有する全資産額の増減率も説明変数に加え、被説明変数であるS&P500の超過リターンの回帰分析を行い、量的緩和変数の係数が5%で有意にそして正であることを証明した。さらに回帰係数がレジームに依存するスイッチイングモデルを評価し、株式市場の状況が比較的良い場合に量的緩和の影響が強くなるという非対称的な効果を示した。次に短期金利や長・短国債の利回り差などを内生変数そしてフェデラルファンド金利と量的緩和変数を外生変数として市場リターンに関するVARモデルの評価を行い、回帰分析の結果と同じように量的緩和変数が超過リターンに対し有意に正に影響することを観測した。また、評価されたVARモデル係数から量的緩和政策の株価市場における経済効果が金利政策による効果よりも大きいことを見出した。最後に量的緩和政策の効果を細分化した結果、実質短期金利効果は重要ではなくリスクプレミアム効果と配当効果が市場リターンに大きな影響を持つことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
データ収集に幾分遅れが出た。当初の計画では実証研究で使用するデータは月次であった。しかしながら米国の場合、量的緩和政策を開始したのが2008年11月と遅く、評価するパラメータが比較的多いレジーム・スイッチイングモデルやVARモデルなどで正確な結果を得るには月次データの場合十分なサンプル数を確保することができないと考えた。そのため本研究課題に関連したマクロ経済に関する1つの先行研究で、量的緩和変数として使われた中央銀行が所有する全資産額が、週次データとして入手可能であるため本研究課題でも用いることにした。この変更に伴い他の変数も週次データにする必要があった。週次データに変更することにより540の観測数を確保できた。
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Strategy for Future Research Activity |
米国市場の場合、本年度の実績に加えレジームに依存した量的緩和政策の株価市場における経済効果を調べる。投資家機運を考慮した分析も行う。
日本市場の場合、株式市場指数、量的緩和変数、政策金利変数、そして市場リターンの予測に用いるVARモデルの内生変数、投資家の機運を測定する変数のデータはすでに集められている。今後研究計画に従い米国市場同様、量的緩和変数の株価市場における経済効果を評価していく。
本研究課題では株式に加えて社債への影響も調べる予定であるが、社債に関する精度の高いデータを集めることができるか未定である。社債のデータを取得できない場合、CDSスプレッドを代わりに用いることも検討される。
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Causes of Carryover |
適切なデータを収集することに予定より時間がかかり当該年度中に論文を作成することができなかったため、英文校正や学会への参加を計画通り行うことができなかった。
次年度は論文の完成や論文発表のための学会への参加に、翌年度分として請求した額と合わせ使用する予定。
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