2018 Fiscal Year Research-status Report
金融危機時における銀行バランスシートリスクと貸出行動の誤認識問題
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18K01693
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Research Institution | Sapporo Gakuin University |
Principal Investigator |
井上 仁 札幌学院大学, 経済学部, 准教授 (10545057)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中島 清貴 甲南大学, 経済学部, 教授 (00367939)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 銀行貸出 / 自己資本比率 / ローンレベルデータ / マーケット情報 / 銀行資本構成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,金融危機時における銀行のバランスシートリスク(倒産リスク)に対する誤認識が,銀行行動の誤認識をもたらすことの可能性を実証的に分析することである.初年度である平成30年度においては,バブル崩壊後1990年代後半の我が国の金融危機時における銀行行動に着目した. まずはじめに,①銀行のバランスシートリスクを簿価情報で測定するのが適切なのか,もしくはマーケット情報で測定するのが適切なのか,という点について,90年代後半に破綻した邦銀に関してケーススタディ分析を試みた.その結果,多くの破綻銀行において,破綻する数年前からマーケット情報であるマーケットキャピタルレシオは低迷していたのに対して,簿価情報である規制資本比率は上昇していた.この結果から,銀行のバランスシートリスクをより反映しているのは簿価情報ではなく,マーケット情報であるという示唆を導くことができる.その要因として,我国の自己資本比率規制が制度上内包している問題がある.本研究の貢献として,銀行政策の制度設計へのインプリケーションを挙げることできる. 次に,②そうした各指標によって銀行のバランスシートリスクを規定した際に,金融危機時における銀行の貸出行動は個別の指標ごとにどのように概念化されるのか,という点について,ローンレベルデータを用いた実証分析を試みた.その結果,銀行のバランスシートを規定する変数として簿価情報を用いた場合には「追い貸し」仮説が支持されるが,銀行のバランスシートリスクをより反映していると考えられるマーケット情報を用いた場合には「貸し渋り」仮説が支持された.上述の①の結果を踏まえれば,金融危機時の銀行行動は「追い貸し」ではなく「貸し渋り」であったことが示唆される. 上述の分析結果を英語論文に取りまとめ,日本ファイナンス学会,Econometric Societyなど国内外で学会報告を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者・分担者ともに研究時間を確保し,当初の研究計画に沿って順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方向性として2点挙げられる.これまでの本研究の研究成果から,金融危機の時期において,銀行の簿価情報や規制資本比率が銀行のバランスシートに関して真の情報を有しない一方,マーケット情報であるマーケットキャピタルレシオが真の情報を有していることが示唆される.さらに,誤った指標である簿価情報を用いることで,本来は観察されないはずの誤った仮説が支持される実証結果が誤って得られてしまう.このような銀行のバランスシートリスクの誤認識とそれに付随する貸出行動の誤認識が銀行政策に与える影響は大きく,金融危機時における貸出行動に対する誤った認識を基に間違った政策が実行されることにもなりかねない.本研究が今後の銀行政策においてどのような洞察を与えることができるのかを模索することが1点目の方向性である. また,これまでは90年代後半の金融危機に着目してきたが,より最近の2000年代後半のグローバル金融危機の時期においても同様の分析が可能である.これら2つの金融危機時において同様の現象が観察されるのか,それとも異なった現象が観察されるのか,異なるのであればなぜ異なるのか,といった疑問への回答を模索することが2点目の方向性となる.
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Causes of Carryover |
本研究テーマに関連する国際カンファレンスが2019年3月ドイツにおいて開催されることが決まったため,当該カンファレンスで報告できることを当初期待して前倒し支払請求を行った.しかし,提出した論文が残念ながら不採択となったため,カンファレンス参加費と交通宿泊費として確保していた資金が不使用となった. 次年度使用額は,2019年度すでに採択が決定している国際学会(カナダおよびオーストラリア)に参加報告するための費用として使用する.
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