2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K01694
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Research Institution | Hokkai-Gakuen University |
Principal Investigator |
吉川 大介 北海学園大学, 経営学部, 准教授 (90735424)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ペアーズ・トレーディング / 不確実性 / 最適停止問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
資産運用を安定化するための基本的な考え方は前提となるモデルに対する信頼度に応じて最悪なシナリオを想定することである。そのシナリオの中でできる限り収益を改善する戦略を練るのである。 この考えに基づきすでに無限期間の投資を行う場合の最適戦略の構築には成功していたが、2018年度はさらに有限期間に制限した最適戦略の構築を試みた。生命保険や年金のように定期的な報告義務がある資産運用の場合、投資期間を有限期間に制約することは有用だからである。 その結果、理論的な成果として有限期間に投資期間を制限した場合でも最適戦略を導出することに成功した。ところが、有限期間に投資期間を制限した場合、最適解を得るのにラプラス変換が必要となることが明らかになった。これにより、最適戦略を数値的に計算することは無限期間に比べると難しくなることがわかった。 現在はこの方法を用いた数値シミュレーションを中心に研究を進めている。具体的には、ダウ・ジョーンズ工業株平均の組成銘柄を用いて、無限期間における資産運用、有限期間における資産運用、そして有限期間かつモデル・リスクを勘案した資産運用の三つの方針による運用を4 半期ベースでシミュレーションし、運用成績の比較を行った。いくぶん近似を入れた形ではあるが、現在のところ有限期間かつモデル・リスクを勘案した資産運用がほかの運用手法に比べて安定した成績を上げることが確認できている。 ところで、ラプラス変換を用いることにより数値計算は難しくなるが有用性もある。最適戦略を明示的に与えることができるため経済学的解釈が容易になるからである。ただし、若干複雑な計算を要するため、数値計算を検証する必要はある。そこで、計算には時間を要するが直接的な手法としてモンテカルロ法を用いた数値計算を行いこれと比較することでラプラス変換による明示解のおおよその妥当性の確認も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の課題はいくつかあるが有限期間に投資期間を制限した場合における最適戦略を導出することはその一つである。 上述したように無限期間の場合の解はすでに得られていたが、有限期間の場合に最適戦略を導き出す問題は無限期間の問題に比べてはるかに難しい。というのも有限期間の場合、満期で強制的にポジションを閉じなければならないなど、問題の制約が多くなるからである。そこでImperial College London のMark H.A. Davis 教授と共同で、ラプラス変換を導入するなど工夫を重ね、ついに解を得ることに成功した。 2018年度はまずこのような理論的成果を導き出すことに成功したことを「おおむね順調に進展している」理由の一つとして挙げたい。 さらに、こうして得られた理論的な結果を実際のマーケット・データを用いて検証することも本研究の重要な課題の一つである。これについて、2018年度はダウ・ジョーンズ工業株平均に登録されている銘柄を用いて検証を行った。具体的には、ダウ・ジョーンズ工業株平均の組成銘柄を用いて、無限期間における資産運用、有限期間における資産運用、そして有限期間かつモデル・リスクを勘案した資産運用の三つの方針による運用を4 半期ベースでシミュレーションし、運用成績の比較を行った。いくぶん近似を入れた形ではあるが、現在のところ有限期間かつモデル・リスクを勘案した資産運用がほかの運用手法に比べて安定した成績を上げることが確認できている。 これらの成果は2018 年9 月オックスフォード大学で開催された学会(Robust Techniques in Quantitative Finance)で発表した。また、この学会での発表をきっかけに上海交通大学からの招聘を受け、12 月には同大学において講演を行うなど、研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
上述した通り、ラプラス変換を用いて得られた明示的な最適戦略解の数値検証においてモンテカルロ法による数値解をベンチマークとして用いた。しかし、Longstaff and Schwartz (2001)などが示した数値例などでもみられる特徴であるが、モンテカルロ法は解のおおよその値を示しはするものの、なめらかな解を得ることは非常に難しい。これは、ある程度やむを得ないことではあるが、ベンチマークとしてはより滑らかな数値例が望ましいことも確かである。そこでモンテカルロ法に加えて有限差分法などその手法による数値例の導出も試みたい。 また、上海交通大学のYiqing Lin教授との議論から生まれたアイデアだが、ありうる推定確率測度の分布を平均した測度を用いて収益評価することやモデル・パラメータに上下限を制約として与えるなどして、最適戦略解を求める最適化問題の新たな定式化も検討している。 これによりこれまで取り組んできた相対エントロピーをペナルティ関数とすることで定式化してきた最適化問題の有効性を別の角度から再検討する契機になることが期待される。 また、数値検証についてもこれまでは比較的短期間のマーケット・データを利用したものが中心だったが、サンプリング期間を拡張することでより広範な検証を行うことを予定している。 研究計画の位置づけとしては、課題の一つとして挙げていた運用手法の有効性に関する検証を中心に取り組みつつ、すでに得られた有限期間の最適資産運用手法の理論的結果をより多様な角度から検討し補強することに取り組んでいきたい。
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Causes of Carryover |
本年度は国際学会に2度参加したため、当初想定していた以上の予算を執行することとなった。こうした中、2018年度12月には上海および東京で開催されるセミナーに参加することが決まり、予算がひっ迫することが明らかになったため次年度使用額が生じた。また、そのほかにも年度末までに数度の研究打ち合わせおよびセミナーへの参加が必要となる可能性があったため前倒し申請をした。しかしながら、幸い12月の上海交通大学については招待講演とのことで先方負担となったため、若干予算に余裕ができ次年度使用額が生じた。
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Research Products
(3 results)