2018 Fiscal Year Research-status Report
Progress of trade transactions in Asian currencies: Analysis by market transaction data and company interviews
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18K01698
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
清水 順子 学習院大学, 経済学部, 教授 (70377068)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 円の国際化 / 貿易建値通貨 / 基軸通貨 / 為替リスク / 金融危機対応 / チェンマイイニシアチブ / 直接交換市場 / 人民元の国際化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アジア域内の貿易取引や決済において米ドル以外の通貨の需要がどれだけ高まる余地があるかという問いに対して、為替取引の市場データと企業インタビューという両面からアジア通貨の量的・質的な分析に取り組み、アジアの為替制度と金融危機対応のあり方に対する政策提言を行うことを目的としている。 本研究では、3年間の研究期間において①アジア域内の貿易建値・決済通貨について、国際決済銀行(BIS)や国際銀行間通信協会(SWIFT)が定期的に公表している市場取引データを用いてその量的変化の傾向を精査するとともに、②アジア企業に対して貿易建値・決済通貨の選択に関するインタビュー調査を行い、アジア通貨の質的変化を把握する、③日本企業を対象としたアンケート調査によりアジア現地通貨利用の実態を調査し、現地通貨建て取引の実態とその利用を阻害・促進する要因を分析することを予定している。初年度の2018年には、②および③に関する研究を進めた。 具体的には、日本企業の動向については、清水がこれまで行ってきた経済産業研究所でのアンケート調査(最新は2017年11月実施)の結果概要をまとめ、過去2回行ってきたアンケート調査結果との比較検討と合わせて経済産業研究所のDPとして論文を公開し、学会発表を行った。また8月には清水が共同研究者として所属しているASEAN+3 Macroeconomic Research Officeに出張し、アジア域内のクロスボーダー取引における現地通貨利用に関する調査を実施し、9月にはソウルで金融機関や韓国の代表的な製造業へのインタビュー調査を行った。その結果、日本企業のアジア域内での貿易取引においてアジア現地通貨利用が増加傾向にあること、韓国企業は韓国政府による人民元と韓国ウォンの直接交換市場などの促進政策により、中国との貿易で人民元建て取引が増えていることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の研究成果としては、以下三点が挙げられる。第一に、日本企業の動向については、清水がこれまで行ってきた経済産業研究所でのアンケート調査(最新は2017年11月実施)の結果概要をまとめ、論文として公表し、学会報告を行った。この中での大きな成果は、日本企業のアジア向け貿易取引において、アジア通貨建て利用の拡大が確認されたことである。こうした近年の特徴は、日本企業にとってアジアの主要な取引相手国の通貨の国際化がより重要となっていることを示唆するものである。研究成果については、RIETIのDPとして公開され、2018年10月の日本金融学会秋季全国大会で学会報告を行った。 第二に、清水が2017年9月より共同研究者として所属していたAMRO(シンガポール)において、日中韓およびタイの研究者とともに「アジア通貨の域内貿易利用拡大と現地通貨建てチェンマイイニシアチブの可能性」というテーマで国際共同研究を行った。この研究については、9月にソウルで開催されたAMROの会議で中間報告を行って議論を深め、2019年1月には最終報告書としてまとめられ、AMROのウェブサイトで公開された。この成果としては、アジア域内の貿易取引において円、人民元やタイバーツの利用がさらに拡大すれば、アジアのセーフティネットとして現在米ドル建てで準備されているチェンマイイニシアチブを将来はアジア通貨建てで行う可能性があるという有意義な示唆がなされた。 第三に、財務省関税局が保有する関税データを用いた分析の開始である。清水は2018年10月より財務総合研究所の特別研究官となり、輸出入・港湾関連情報処理システム(NACCS)のデータ利用が許可された。これに伴い、NACCSの膨大なデータを利用した日本企業の貿易建値通貨選択に関するミクロレベルの分析が可能となる。データ構築と実証分析については、次年度以降の課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、アジア域内の貿易取引や決済において米ドル以外の通貨の需要がどれだけ高まる余地があるかという問いに対して、BISやSWIFTといった為替市場の取引データの分析に取り組むことを予定していた。しかし、2018年秋より財務省関税局のNACCSの企業レベルの輸出入データを利用できることになったため、2019年度についてはNACCSのデータの中でもアジア向け貿易に焦点を当ててデータセットを構築し、日本企業を中心としてアジア域内貿易における通貨選択とその要因について明らかにすることに注力する予定である。近年の人民元の国際化に関する議論やASEAN諸国通貨の国際的利用促進策(Local Currency Settlement Framework: LCSF)などに見られるように、「通貨の国際化」というテーマに改めて高い関心が集まっている。そこで、税関の個票データを用いることでより包括的かつ詳細な実証分析を行い、「円の国際化」という観点から日本企業が円建て貿易を選択することの経済的意義について再検討する。 さらに、人民元利用の拡大については、経済産業研究所での日系の現地法人対象のアンケート調査(最新は2018年1-3月実施)の結果と統合しながら、人民元利用に関するASEAN+3各国のパネルデータを作成し、人民元利用の拡大を促す要因分析を行う。これにより、Sato and Shimizu (2016)では人民元取引に拡大の余地ありとまでしか結論できなかった「人民元がアジアの基軸通貨となりえるか」という問いに対して新しい見解を提示することを目指す。アジア現地通貨についても同様の分析を行い、アジア域内貿易における現状を明らかにするとともに、現地通貨利用を促す具体的な政策について、何らかの提言を導く予定である。
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Research Products
(10 results)