2019 Fiscal Year Research-status Report
The Postwar Development of General Electronic Components Industry and the Mechanism of Competitive Advantage: Historical Study on Industrial Dynamism
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18K01717
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
平本 厚 東北大学, 経済学研究科, 名誉教授 (90125641)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 一般電子部品 / 電解コンデンサ / 共同研究 / 競争優位 / 産業ダイナミズム / イノベーション・システム / エレクトロニクス / 中堅企業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究計画の第二年度として、①昨年度の分析を論文にまとめること、②本来の計画である、1955~75年の高度成長期を対象に資料収集と産業ダイナミズム分析を行うこと、に注力した。①については、成果を学術雑誌に投稿したが(査読中)、そこで今年度に新たに付加した論点は、(a)復興期電解コンデンサのイノベーション・システムは企業にとっては安価であったこと、(b)イノベーションの恩恵は、産業内ではそれを先導した中小企業に主に帰属し、そのことで各企業は急速に成長したこと、(c)イノベーションの効果は社会にも速く拡散し、機器側の発展を支え、産業自体も成長したこと、などである。その成果は投稿論文の他、電子部品産業研究の有力先行研究である中島2019にたいする『社会経済史学』書評にも反映している。 ②では、技術雑誌や業界新聞の収集の他、東北大学経済学研究科所蔵の電子部品企業資料(服部文書)を整理し、それに基づく分析を行った。とくに後者では、これまで知られていない高度成長期の電子部品中小企業の実態が明らかになった。これは本研究の研究上の大きな優位を形成するものである。それらを分析した結果、次の見通しを得た。(a)高度成長期には、トランジスタ化につれて電解液の改良などに技術課題が移り、企業独自の革新が重要になったこと、(b)したがってイノベーション・システムは企業中心の性格を強めたこと、(c)他方、有力企業からのスピンオフで多くの企業に優良技術が流出し、産業全体の技術水準が上るとともに均質化したこと、(d)そのことで多くの中小企業の存続が可能になり、企業間競争の維持や容易な需給の調節などの効果を生んだこと、(e)産業全体の技術レベルが上昇したことで有力企業はますます革新を迫られ、企業独自の技術革新能力の構築が進んだこと、などである。これらの成果の一部は経営史学会東北ワークショップで発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
①新型コロナウィルスの流行の影響で、令和元年度末に予定していた資料収集が十分にはできなかった。とくに業界情報の基本を構成する業界新聞が十分には収集できていない。②成果を論文にまとめる作業も予定より少し遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究の結果もあり、二つの事情から今後の研究計画について予定を若干変更することとした。一つは、本年度、本格的な利用を開始した、東北大学経済学研究科所蔵の電子部品企業資料(服部文書)が所期以上に研究史にとって重要であることが判明したことである。同資料は単に電子部品産業発展史の解明にとって貴重なだけではなく、中小企業論分野でのいわゆる「中堅企業論」などにも貢献できることが判明した。もちろん、あくまで研究課題である電子部品産業論の枠内でではあるが、イノベーションの視角からだけではなく、産業論や中堅企業論からの視角からも研究成果をまとめておくことが研究史にとっては有用である。令和2年度はその視角からの研究成果の公表にも注力することにした。 もう一つは、新型コロナウィルス流行の社会的影響によるものである。令和2年度の本来の計画は、1975年~2000年代前半のグローバル化時代の産業ダイナミズム分析に着手することであった。資料収集を行いつつ、企業に実態調査への協力を依頼し、調査を実施することを予定していた。しかし、現状では企業への調査依頼はもとより、資料収集に不可欠な国内各種図書館の利用もままならない。 そこで、令和2年度は、まずは、高度成長期のイノベーション・システムについての知見を論文としてまとめ、また、服部文書を利用した電子部品産業論・企業論を論文として公表することを目指すこととした。もちろん、社会情勢が許すようになり次第、本来の予定である1975年以降の資料収集と企業調査依頼に着手することとする。 令和3年度は、国内セットメーカーが国際競争力を失って取引相手が本格的にグローバル化する2000年代半ば以降を対象とした研究を行い、最終年度である令和4年度は、補足的な資料収集や調査を行いつつ、全体の分析結果を産業ダイナミズムの変遷として総括する。
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Causes of Carryover |
主に、資料整理(東北大学経済学研究科所蔵電子部品企業資料の整理)に予定していた人件費が、研究代表者自身が整理しているため、当面は不要となったこと、及び年度末に実施予定であった資料収集のための旅行計画とそれにともなう複写費の支出が新型コロナウィルスの流行の影響でできなくなったことなどのため、次年度使用額が発生した。次年度は今のところ、企業の調査や遠隔地での現地の電子部品企業資料の収集を予定しており、当初予定より国内旅費や海外旅費が嵩むことが見込まれる。物品費(電子部品産業関係図書など)、複写費など他の費目は、当初予定の使用を見込んでいる。
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Research Products
(2 results)