2019 Fiscal Year Research-status Report
日本の経済統制期における通貨発行を通じた財政ファイナンスの長期的影響について
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18K01720
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
齊藤 誠 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (10273426)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 貨幣発行益 / 財政ファイナンス / 統制経済 / 中央銀行券と政府紙幣 / 闇市場 / 旺盛な貨幣需要 / ゼロ金利環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,政府の資金調達手段として歴史上実施されてきた中央銀行券や政府紙幣の大量発行の中長期的な影響について、1937年から49年に経済統制下に置かれた日本経済を研究対象として現代的なマクロ経済学の観点から分析を行う。その上で、国債と日銀債務(日銀当座預金と日銀券)の大量発行によって維持されている1990年代半ば以降の日本の財政へのインプリケーション、とりわけ物価水準への影響について理論的、実証的な視座を得る。 戦中・戦後の経済統制期の財政と1990年代半ば以降の財政に共通する側面は、旺盛な貨幣需要が日銀や政府の債務の受け皿となっていることである。2018年度、19年度の研究で明らかにされたように、戦中の経済統制期における旺盛な貨幣需要は、内地では、闇市場における財産秘匿のための日銀券需要、外地では、政府と軍部が大陸に創設したいくつかの中央銀行や発券銀行の銀行券への強制的な需要に支えられてきた。そうした旺盛な貨幣需要は、戦後、闇市場の価値貯蔵手段が日銀券から実物資産に移行するとともに縮小し、敗戦による領土喪失で大陸から享受していた貨幣需要をすべて失った。日本経済は、その過程で物価高騰に見舞われる。 一方、現代日本における旺盛な貨幣需要の要因は、1990年代半ば以降から続くゼロ近傍の金利環境である。こうした旺盛な貨幣需要は、日銀券、日銀当座預金、国債の大量発行の受け皿となった。 このような両期間の異同を踏まえ、物価水準の決定理論について、従来の貨幣数量説と新しく出てきた物価水準の財政理論(FTPL)を統合した新しい理論枠組を提出し、その実証的な有効性を両期間のデータで検証するとともに、今後の日本経済の物価動向に関する予測作業を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、以下の方針のもとで順調に進捗している。 2019年度は、戦中・戦後の統制経済期において、貨幣数量の増加と物価水準の上昇がずれてしまう現象が、貨幣需要の高まりと減退に対応していることを明らかにした。そうした現象は、貨幣数量と物価水準が比例的に変化するという貨幣数量説では説明できないことから、物価水準の財政理論(FTPL)に貨幣市場の超過需要を組み入れるという不均衡分析を組み合わせることで、新たな物価理論を構築した。 この理論を現代の日本経済にも適応し、1980年代以降の物価動向(標準的な貨幣数量説からも、FTPLからも説明できない現象)をおおむね説明できることを明らかにした。さらには、こうした不均衡分析の枠組みを均衡分析に置き換えることを試み、FTPLに組み入れた貨幣需要の超過需要が、公債価格のバブル項に対応することを明らかにした。 こうした理論枠組を改めて両期間に応用することで、経済統制期の旺盛な貨幣需要(貨幣市場の超過需要)が国内闇市場と大陸での強制的な貨幣保有によって生じるとともに、現代の日本経済の旺盛な貨幣需要がゼロ金利環境の下で生じ、そうした貨幣需要が、物価上昇の圧力がないままに大量の政府債務を支えていることを明らかにしてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、18年度、19年度の研究成果を踏まえ、Strong Money Demand in Financing War and Peaceというタイトルの英文著作(Springerから公刊予定)の草稿を2020年末までにまとめる作業を行う。
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Causes of Carryover |
当初予定通りに予算を執行したが、論文の英文校閲の費用の決済が2020年度に持ち越された。この次年度使用額と2020年度分の助成金を合わせた予算は、英文論文の校閲、学会報告の旅費、研究補助者への謝金に使用する予定である。
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