2020 Fiscal Year Annual Research Report
Chinese Economy in the 1960s and the Vinyron-plant imported from Japan
Project/Area Number |
18K01723
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
久保 亨 信州大学, 人文学部, 特任教授 (10143520)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 現代中国 / 日中経済関係 / 繊維産業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中華人民共和国政府の経済政策の展開の中において、1960年代初頭に実施された化学繊維尾製造プラントの輸入がどのような意味を持ったかを広い視野の中で検討することをめざした研究である。 2019年度後半から2020年度にかけては、遺憾ながら新型コロナウイルスの感染拡大のため内外の研究機関を利用することが困難になったため、個別的な研究論文の執筆ではなく、長い歴史的展望の中で研究課題を位置づけ直す作業に注力し、『現代中国の原型の出現――国民党統治下の民衆統合と財政経済』(全412頁)と『20世紀中国経済史論』(全582頁)の2冊の著作をまとめた。とくに後者においては、現代中国経済が成立してくる過程で1940~70年代という時期が持った意味に関する考察を深め、軍事工業に傾斜した重化学工業の発展がめざされた一方、国民向けの衣料供給と輸出向け繊維製品の確保を両立させる方策として、化学繊維工業の展開も重視されるようになったことを明らかにした。1940年代から1970年代は、日中戦争・第二次世界大戦・朝鮮戦争・戦後冷戦と軍事的緊張が続いた時期であり、中国経済の発展は軍需工業を軸とする重化学工業化へ極端に傾斜した。そうした方向性が可能になったのは、従来の中国経済の発展を通じ、綿紡織業、製粉業、セメント製造業、ソーダ製造業など多くの工業分野がすでにある程度の発展水準を実現していたからである。戦時期に日本資本の在華紡が備え始めていた紡織機械製造技術や満洲(中国東北地域)に展開された満鉄の鞍山製鉄所のような巨大な生産設備が人民共和国に継承されたことも、重要な条件になった。しかし東西冷戦の下、中国の対外経済関係は一段と縮小していき、農業や軽工業は国民経済の必要を十分に満たせなくなっていった。化学繊維工業は、そうした状況を打開する重要な方策の一つに位置づけられた。
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