2020 Fiscal Year Research-status Report
The Study of engineer education in modern China mining and manufacturing industry
Project/Area Number |
18K01727
|
Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
富澤 芳亜 島根大学, 学術研究院教育学系, 教授 (90284009)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 近代中国の紡織業 / 中国の繊維製品輸出 / 中国の技術者養成 / 中国の棉産改良 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、近代中国における工業技術が、社会主義化などの政治的な変動を超えて継承されたことの解明にある。令和2年度には、これに関連する以下の2本の論考を公表できた。 まず「計画経済期中国の綿製品輸出について」村上衛編『転換期中国における社会経済制度』173~205頁、2021年1月は、計画経済期中国の紡織業が、高効率での外貨獲得を追求し、そのために設備投資と製品開発を持続し、その後の改革開放期へと繋がったことを明らかにした。また以下の諸点も解明した。中華人民共和国建国直後の輸出綿製品の基礎には、民国期に形成された紡織技術・設備や原綿改良の成果があり、なかでも民国期の最優良綿布である龍頭細布の旧在華紡から中国への技術移転は、在華紡の設備と長谷川ら東洋紡の技術者の存在によってはじめて可能となった点。また、初期の対資輸出の主力だった跳鯉細布は、龍頭細布の製造技術を基礎に開発された戦略商品だった点などである。 次に「華中棉産改進会とその棉産調査(1939-45年)」久保亨、瀧下彩子編『戦前日本の華中・華南調査』東洋文庫、119~150頁、2021年3月は、戦時中の日本による中国占領地の綿産改良事業を、近代中国史に再定位した。日本の占領地開発機関だった華中棉産改進会は、清末から国民政府までの棉産改進事業を踏襲しつつ、これを日本帝国の棉花自給策に組み込むことを意図した。ところが現地上海の在華紡は、棉産改良への関心は低く、期待された蘇北塩墾区の開拓には10年以上の期間と膨大な資本と労働力が必要だった。また戦時下において農民は、棉花より穀物栽培を選択した。そこで改進会は活動を棉花増産に絞り、主要棉産地に生産合作社を組織し、養成した約400名近い技術者に栽培の指導をさせたが、増産は実現できなかった。しかし戦後にその組織と事業は国民政府に接収され、棉花生産も次第に回復したのだった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度は、【研究実績の概要】に記したように「計画経済期中国の綿製品輸出について」と、「華中棉産改進会とその棉産調査(1939-45年)」の2本の論考を公刊できた。 しかしコロナウィルス感染症の世界的な蔓延により、本研究計画も影響ほ受けることになった。本研究計画は、中国現地の文書館所蔵の一次文書を用いて、近代中国における工業技術の形成過程を解明するものである。しかし、コロナウィルス感染症により、中国への渡航は事実上不可能であり、令和2年度は現地調査を断念せざるを得なかった。それどころか、国内の研究機関の使用にも大きな制限がかかり、東京や京都に移動することも困難となり、勤務地である島根県松江市から移動することができず、史料調査が完全に不可能となった。 そのため昨年度の【今後の研究の推進方法】に記したように、古書店を経由して、研究計画に関連する多数の貴重な中国の古書を入手した。これにより多くの新たな知見を得ることができたが、はやり現地の文書館の一次史料に代わり得るものではなく、研究計画の一年間の延長も今後考慮したい。 コロナウィルス感染症の影響は研究成果の公表にも影響を与え、6月に報告を予定していた社会経済史学会大会は、学会自体が中止に追い込まれるなど、研究代表者個人の努力や工夫では、如何ともし難い状況に追い込まれている。
|
Strategy for Future Research Activity |
依然として、コロナウイルス感染症の蔓延により、研究計画の順調な推進は困難となっている。まず国内の主要な中国関連の図書館(東洋文庫、東京大学東洋文化研究所、京都大学人文科学研究所)には、利用になにがしかの制限がある。また勤務先の島根大学から、島根県外(特にコロナウィルス感染症感染者の多い首都圏や関西地方)への出張を原則禁止されている。そのため国内の関連資料へのアクセスは、非常に難しい。 また本研究では、上海市档案館など中国の文書館所蔵の一次史料の利用を前提としているが、現状では中国への渡航はほぼ不可能である。国内、国外への移動は、ほぼ出来ない状態にある。これが解消されない限り、資料収集では、古書店などを経由しての収集につとめるしかない。またこれまで収集した資料の分析にもつとめたい。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行により、2020年度に予定していた国内・国外出張を全て中止せざるを得なかったために次年度使用額が生じた。今年度の資料収集費に充てるとともに、研究計画の1年延長も考慮している。
|
Research Products
(2 results)