2019 Fiscal Year Research-status Report
Reform of Taxation and Legal System in Republican China for prohibiting pseudo foreigners' name and nationality
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18K01733
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
本野 英一 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (20183973)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 国籍 / 名義 / 上海会審衙門 / 上海租界 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究活動は、二つ行われた。第一は、前回の科研予算を利用してアメリカ国立公文書館(National Archives and Record Administration II)で入手した1903年から1919年にかけての米中間契約履行裁判記録を用いて、義和団事変直後から第一次世界大戦終了期の上海周辺で、在華アメリカ企業が行っていた様々な債権取り立て裁判から、逆に当時の中国企業出資経営者が、在華アメリカ企業を自分たちの財産保護手段と見なし、財産保護に利用できないと判明すると、あっさり契約履行を拒否する態度に出ていたこと。アメリカ側もこれに対抗して契約調印時点で立てておいた保証人の身柄拘束、財産没収に出ていたことを解明した英文論文を作成した。これは、Internation Journal of Asian Studies に投稿し、採用が決定した。 肝心の外国人名義、外国国籍問題であるが、前者がものを言ったのは、上海租界内で活動していた英米人法律事務所の名義であり、これを利用していたのは、当然裕福な資産を有する官僚・地主とその一族であった。彼らは本来なら、在華外国人・企業にしか許されていなかったはずの上海租界内部の土地不動産を、英米人法律事務所を通じて購入し、彼らの名義を自らの資産を保護する手段としてこれを利用していた。この方法によって、彼らは万一破産し、債権者から訴訟を起こされても、租界内に保全しておいた土地不動産の差し押さえを免れようと図った。この方法は、債権者が在華外国企業の場合は効果があったが、債権者が中国企業であった場合はうまくいかなかった。そこで彼らは、こうした場合にそなえて日本、あるいはポルトガル国籍を取得し、これを根拠に会審衙門の資産差し押さえ命令に従わないという論法を展開した。この事件については、来年度に論文にまとめる予定。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前回の科研予算による研究成果をまとめた英文論文が編集委員会によって採用を認められ、今年度中に掲載される。また、昨年の研究成果は、上半期中に邦文論文として投稿予定。これに続く1920年代の研究は、六月に京都大学人文科学研究所附属現代中国研究センター村上研究班で報告を行う。併せて、上海租界以外の地域に開設された地方審判庁で審理が行われた英中民事訴訟の事例の中から、イギリス国籍を取得することによって債権者からの差し押さえを逃れようとしていた華人の活動がどこまで及んでいたのかを突き止め、同時にイギリス国籍を取得して中国政府の法律に従わない中国人をイギリス、中国両国政府がどのように扱っていたのかをめぐる外交文書を読み始める。これだけの作業は、今の所順調に進行中。
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Strategy for Future Research Activity |
本学年度は、現役最後の研究休暇を利用して、京都大学人文科学研究所附属現代中国研究センター「近現代中国の制度とモデル」研究班に所属し、そこで1回(六月一一日)に報告を行う他、勤務先のグローバル経済史研究会でも研究発表を行う。前者は、今年『史学雑誌』に投稿を予定している昨年の研究成果を踏まえた、1920年から1927年にかけての上海会審衙門で審理が行われた米中、英中民事訴訟を分析した報告、後者は、1908年から1921年にかけて上海以外の中国各地の地方裁判所(審判庁)で行われた英中民事訴訟記録を分析しながらイギリス国籍(場合によってはそれ以外の国の国籍)を保有することで、治外法権制度、中国の法制度執行機関による財産差し押さえを逃れようとする華人の動向を、イギリス、中国政府官僚がどのように取り締まっていたのかを報告する。 併せて、来年度以降の研究発表の準備作業として、会審衙門を国民政府に返還されて以後開設された上海臨時法院で1928年から1930年にかけて行われた英中、米中民事訴訟記録を読み、この時期の外国国籍、あるいは租界内英米人法律事務所の名義を利用した資産保有がどこまで効果を発揮し得ていたのかを解明するのに続いて、現在所在が確認されている唯一の事例として、1932年から1937年に上海会審衙門、最高法廷で審理された無錫栄家が国民政府からの接収を免れるためにイギリス企業名義に置いた自分たちの工場の所有権問題をめぐる訴訟を、ロンドンで発見した新史料を用いて検討する予定。これは、来年度以降にその成果を報告する準備作業である。
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