2018 Fiscal Year Research-status Report
1910~30年代の北陸と宮城県における農業技術普及と土地貸借市場の経済学的研究
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18K01735
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
勘坂 純市 創価大学, 経済学部, 教授 (20267488)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 米穀検査制度 / 経済史 / 戦間期日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
1910年から1930年ごろの農業技術普及は、単に反収(土地生産性)の向上だけでなく、米の品質の向上が大きな目的であった。そこに大きな役割を果たしたのが米穀検査制度の発達である。そこで、本年度は、米穀市場の発達に対応した米穀検査制度の展開を全国規模で分析した。20世紀初頭の鉄道網の発達によって米の産地間競争が激しくなり、県営の米穀検査制度が発達した。従来の研究では、県営の生産検査によって、県内で生産された米穀のほぼすべてが「強制」的に検査され、それによって、米の品質の向上が図られたことが指摘されている(持田1970, 玉2013, 有本2017)。 しかし、現実には、米穀検査制度は、すべての県で順調に推移したわけではない。例えば、福岡県では、1911年から県営検査が始められたが、その進展は地域によって大きく異なっていることが、同県の各年の『米穀検査報告』を分析することによって明らかにできる。すなわち、豊前では、当初から生産量の40-50%程度の割合で検査が行われていたのに対し、筑前では1920年まで、筑後では1929年まで検査率は20%を超えることはなかった。この結果、大阪米穀取引所での格付けにおいて、筑前米、筑後米の評価は低位に留まっている。とくに筑後米は反収においては非常に高位であったことを考えると、米の品質向上には、土地生産性とは異なる技術が求められたことが明らかである。 一方、富山県では、1905年という早い時期から県営検査が行われたが、東京および大阪市場での格付けをあげることができなかったため、1922年には、県営検査は強制ではなくなっている。 このように、米穀検査は施行決定とともに、各地で順調に行われたわけではなく、各産地の地主小作関係等の社会状況、農業技術水準の差異に応じて、多様な展開をしていたのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各県の県農業技術研究所、各県農会による技術指導、農事指導を示すデータベースを作成する過程で、米穀の品質向上を図るために各県が行った米穀検査の重要性が明らかになった。そこで、2018年度は、東京・大阪の米穀格付け表の分析による産地間の品質競争、および、新潟件、富山県、福岡県の米穀検査制度の展開を、各県の『米穀検査報告』を基にしたデータ・ベースの作成に主に取り組んだ。従来、県営の米穀検査制度の重要性は指摘されてきたが、多くの研究は、その開始時期のみを分析の指標としている。そのため、実際に同検査制度がどのような体制で、どのように実施されていたのかは、ほとんど明らかにされていない。その点で、今回、資料に基づいて、各県の実施過程を明らかにできたことは、本年度の研究の大きな成果であるといえるだろう。 また、こうした研究成果は、2019年2月6日に、アメリカ、カリフォルニア工科大学で開催された Joint Conference ALL-UC Group-APEBH-Caltechにおいて発表され、海外の研究者から、貴重なコメントを得ることもできた。 このように、2018年度は、米穀検査の分析に多くの時間を割いたため、当初予定していた土地改良事業のデータベースの作成は進めることはできなかったが、各産地の技術向上の重要な背景となる米穀市場の展開について、非常に興味深い事実を明らかにできたので、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず2018年度より作成を開始した米穀の産地間競争のデータベースを作成する。従来は、この分野に関しては、東京・大阪市場の格付けが中心に研究が行われたが、より低い品質の米国は北海道、樺太市場へ多く移出されていた。これらの米穀移出の動向も考慮に入れて、戦間期に本の全国の米穀市場の展開を明らかにする。その上で、各県の米穀検査制度の展開を、こうした全国市場の展開への対応と位置づけ、その推進主体、および抵抗主体を明らかにする。 米穀検査制度は、各産地の米穀の品質向上を目指した取り組みであったので、農業技術の普及、さらにはその基盤となった耕地整理事業と深く連携をして進められていた。そこで、今後は、これ等の過程を明らかにするために、農事技術研究所・農会による技術指導、土地改良事業の進展、農家経営の実態を明らかにしていきたい。そのため、『宮城県農会報』(北海道大 学附属図書館所蔵)、宮城県農会(1936)『自給肥料改良増産施用優良農家竝組合ニ關スル調査』(北海道大学図書館所蔵)、『新潟県農会報』(東京農工大学図書館所蔵)、『富山県農会報』(富山県立図書館蔵)、『石川県農会報』(石川県立図書館所蔵)の分析を進めていく。 また、日本の農業史研究の国際化のため、さらには、本研究の国外の事例との比較、および国外の研究者のコメントを聞くために、海外での研究発表を積極的に進めたい。現在、2019年10月にイタリアで行われるコンファランスEconomics of culture and food in evolving agri-food systems and rural areasに研究発表のproposal を提出して結果を待っているところである。
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Causes of Carryover |
当該年度内の予算消化を目指して、研究を進めたが、端数として3,805円を次年度使用額に回さざるをなくなった。
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Research Products
(1 results)