2020 Fiscal Year Research-status Report
1910~30年代の北陸と宮城県における農業技術普及と土地貸借市場の経済学的研究
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18K01735
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
勘坂 純市 創価大学, 経済学部, 教授 (20267488)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 米穀検査 / 土地生産性 / 農業技術 / 耕地整理事業 |
Outline of Annual Research Achievements |
『富山県米穀検査報告』のデータベース作成を進めた。同報告書では、明治37年(1904年)から大正5年(1916年)にわたって、県内の272村の村ごとに、作付反別、収穫高、消費高が示されている。これは、産米検査の対象となる石数を「収穫高-消費高」から計算し、産米検査率を算出するために記録されたと推定される。県単位、郡単位で作付反別、収穫高を記録した史料は各地に存在するが、管見の限り、県全体にわたって村単位でここまで詳細な記録が残している例はない。その点で、このデータの価値は大きい。こうした詳細な記録の存在は、本研究の開始時点では予測していなかったことである。しかし、これによって農業技術普及、土地改良事業の農業生産へのより詳細な分析が可能になるので、この記録のデータベース化に優先して取り組んだ。 記載された記録から反当収量を計算すれば、272村の平均は、例えば、1904年 2.19石、1908年 2.28石、1912年 2.16石、1917年 2.17石となる。従来から指摘されているように、富山県は、新潟県などに比べて高い反収を早い時期から実現しており、当該期間に反収、すなわち土地生産性は停滞していたかのようである。しかし、村落の中には生産性が大きく上昇するものもあったことを見落としてはならない。272村の反当収量の標準偏差は、1904年 0.466石、1908年 0.373石、1912年 0.330石、1917年 0.358石と縮小していっている。すなわち当該期間中に村落ごとの生産性の格差は大きく減少したのである。 この生産性の格差の縮小をもたらした要因は何であったのか。農業技術の普及の努力、耕地整理事業の進展、さらには同県西部に特徴的であった「慣習小作件」を含む地主-小作制の進展は、各村の農業生産にどのような影響を与えたのか、今後、検討していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は『富山県米穀検査報告』のデータベース作成を進めた。当初予測していなかった村落ごとのデータを発見し、そのデータベースを作成できたことは大きな成果である。同データベースには、作付反別、収穫量だけでなく、米穀検査の等級、各村の産米改良の記録、郡単位の栽培品種なども入力されており、今後の研究の基盤を作ることができた。 しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、以下の作業に支障が生じた。 1. 学生の大学構内への立ち入りが制限されたため、学生アルバイトを用いることができず、データ入力を予定通り進めることができなかった。特に、石川県、新潟県の入力『米穀検査報告』の入力を思う様に進められなかった。 2. 研究出張の利用が制限されたため、石川県、宮城県に予定していた資料調査に出かけることができかかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、富山県については村落ごと、石川県、新潟県、宮城県の郡ごとのデータベースをもとに農業生産性の変化要因の統計的分析を行う。 <8月まで>富山県については、『富山県米穀検査報告』に示された村落ごと作付反別、収穫量、米穀検査の等級、各村の産米改良データベースの完成。石川県、新潟県、宮城県の郡ごとのデータベースの作成継続。 <9月から12月>富山県の各村ごとのデータと、農業技術の普及の努力、耕地整理事業の進展、米穀審査の進展、米穀市場の変化(東京・大阪市場への進出の試みと北海道向け移出の拡大など)、さらには同県西部に特徴的であった「慣習小作件」を含む地主-小作制の進展のデータと照合しながら、各村の農業生産性の変化の要因を統計的に分析する。その際、郡単位で、石川県、新潟県、宮城県のデータとの比較分析も行う。 <1月から3月>研究成果の成果報告書をまとめる。研究成果は、国内学会での発表し、フィードバックを受けて、論文発表を目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、以下の作業に支障が生じた。 (1)学生の大学構内への立ち入りが制限されたため、学生アルバイトを用いることができず、データ入力を予定通り進めることができなかった。富山県の『米穀検査報告書』の入力は、主要年度だけにとどまり、さらに、石川県、新潟県の入力『米穀検査報告』の入力を思う様に進められなかった。(2)研究出張の利用が制限されたため、石川県、宮城県に予定していた資料調査に出かけることができかかった。さらに、研究成果の発表のため国内外への主張ができなくなった。 以上の理由から、旅費、人件費・謝金の支出がなくなったため、2020年度の予算消化ができず、次年度使用額が生じた。
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