2019 Fiscal Year Research-status Report
第二次世界大戦期イギリスの社会科学研究と戦後改革の制度設計
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18K01736
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
本内 直樹 中部大学, 人文学部, 准教授 (10454365)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 第二次世界大戦 / イギリス / 戦後再建 / 社会調査 / G.D.H.コール / 福祉国家 / 教育改革 / 教育調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、イギリスを代表する社会主義者G.D.H.コールを主宰者として1941年に開始されたオックスフォード大学ナフィールド・コレッジ社会再建調査(1941~44年)の重要な柱である「教育調査」の実態、及びそれが1944年教育法に与えた影響を明らかにする為、2019年8月~9月にロンドン、オックスフォードで資料調査を行った。ナフィールド・コレッジ図書館にてG.D.H.コールの個人文書、ナフィールド・コレッジ社会再建調査の新たな一次利用(調査原票)を収集した。ナフィールド調査(全国規模の実態調査)と第一線の専門家・学者によるプライベート・コンファレンス(理論構築)の両者の内実を具体的に解明できた。 コールによるナフィールド社会再建調査における「教育調査」は、戦時の疎開が学童に与える影響、教育サーヴィス、成人教育、教育建物の再建、パブリックスクールの存置、教員養成問題、新カリキュラムと中等教育の改革など様々な戦後の教育再建に関する重要課題についての調査報告書(計7本)が政府や教育庁に提出され、これらが戦後再建政策の議論に重要な一石を投じたことを明らかにできた。調査内容の多くの部分が1944年バトラー教育法に反映されているものと確認できた。 本年度の研究実績は、拙稿「イギリス史の視点から」所収の馬場哲ほか編『20世紀の都市ガバナンス―イギリス・ドイツ・日本』晃洋書房(2019年5月)を刊行し、また夏季の渡英中にイギリス人の歴史家との討議において有益な情報交換も行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イギリスを代表する社会主義者G.D.H.コールとナフィールド・コレッジ社会再建調査(1941~44年)における「教育調査」の解明を目的として、2019年の8~9月に現地で資料調査を行った。オックスフォード大学ナフィールド・コレッジ図書館にてG.D.H.コールの個人文書、ナフィールド・コレッジ社会再建調査の一次利用(調査原票)、およびプライヴェート・コンファレンスの議事録など約700枚程度複写することができた。また、LSE図書館、英国国立公文書館、大英図書館にて教育専門家の個人資料、および戦後再建を担う各省庁の未公刊資料の所在を確認することができた。コールが教育庁や政府へ提出した各種報告書、官僚との往復書簡の存在を明らかにできた。 さらには政府・官僚たちがコールたちのナフィールド調査報告書の質と方法論に批判的だったこと、しかしバトラー教育庁長官はコールの調査の意義を認めていたこと、教育法(1944年)にその内容の多くが反映されていることを実証的に明らかにした。またプライヴェート・コンファレンスでの討議内容の分析から産業再建と教育問題を関連付けて政府に問題提起しようとしていた事実を解明できた。しかし、教育調査は政府教育庁からの直接的な委託業務ではなかったため、教育庁の中で本格的に査問される機会が与えられなかったことにある種の限界があったことも明らかになった。 渡英した際には、英国人歴史研究者から一次資料の解釈について有益なアドヴァイスを頂戴することもできた。2019年には拙稿「イギリス史の視点から」所収の『20世紀の都市ガバナンス―イギリス・ドイツ・日本』が刊行された。また本研究の研究協力者である松村高夫(慶應義塾大学名誉教授)との共著論文も完成し、大学紀要に近く掲載の予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
第二次大戦下の「教育調査」が産業問題と関連付けて検討されていたことが明らかになったことから、今後は、「産業調査」を的に絞り、第二次世界大戦下のイギリス産業再建の課題を当時の社会科学研究の動向と関連付けて検討を進めていく予定である。 前回の渡英資料調査で産業調査に関する一次資料を部分的に収集してきたので、今後さらなる資料調査と合わせて関連二次文献の中でいかに位置づけられるのか考えていく。多くの大学の社会科学者、専門家、企業家、社会主義者による同時代出版物の収集と分析から戦時経済計画の実態把握とそこに産業再建政策立案過程を精査していく必要がある。さしあたりナフィールド調査の「産業調査」の全国調査と地方調査の実態の内容を検証し、大学内の委員会内の議事録やコールの見解などを跡付けていくこと、そして政府再建省の反応などの解明が課題となる。そのために2020年夏季にイギリス資料調査を予定しており、最終年度に向けて「都市計画」「地方行政」の資料調査も併せて進めていく。
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Causes of Carryover |
当初の計画では2020年の2月に渡英し資料調査を行う予定であったが、十分な旅費予算が残らなかったことと、夏季に収集した資料の分析と論文執筆に時間を要した為、資料調査を次年度にまとめて行うことにしたから。
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Research Products
(1 results)