2020 Fiscal Year Research-status Report
価値観の相互影響メカニズム及び従業員の組織行動との関連:衝突を成長の機会に
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18K01753
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
王 英燕 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (10456759)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 追跡調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は追跡調査と事例研究の両方を進めてきた。追跡調査では、昨年度行ったミッション・アイデンティティとリーダーシップを踏まえて、組織レベルの心理的資本、組織への意味付けと環境変化だけでなく、個人の心理的資本、仕事への意味付け、アイデンティティ志向性・自己効力感と動機付けに関する調査も行った。 これらの調査データの分析はまだ途中であるが、組織アイデンティティに関する個人の認識について、200名以上の回答のコンテンツを分析しており、現段階で「創業者アイデンティティ」、「組織文化」、「商品・サービス」、「業界内の独自性」の四つカテゴリーに分類できるという特異的な傾向があることが判明している。 ほかには、事例研究を行い、A社のケース・スタディを通じて、理念を装置とするアイデンティティ・ワークのマネジメントのダイナミズムを調査した。一つ目は創業者による「アイデンティティ探索」である。二つ目は「アイデンティティの実践」の段階に移るが、創業者によるアイデンティティの探索の結果が共通する言葉に表されて、企業活動の中でそれを実践に移されながら具現化していく。三つ目は、「アイデンティティの確立」である。世界的知名度を高めることを目的として社名変更を行うと同時に、自社が大切にしている六つの価値観を経営方針に定めた。このように理念の内容を拡充することで「精緻化」が行われ、アイデンティティが確立される。四つ目は、「アイデンティティの進化」の段階である。組織の求心力を「創業家」から「企業理念」に転換して、歴史的遺産を残しながら新たな組織体としてのアイデンティティの進化につながる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、価値観の相互影響メカニズムの研究を進める上での主となる(1)企業の社会的責任を果たす理念、(2)関係的と集団的自己アイデンティティ、(3)共有型リーダーシップの発揮、の三つに絞って考察を進め、英文論文の発表と国内外の学会での発表を行った。 二年目の研究は、組織アイデンティティの中核である「理念」に着目し、組織運営の上で異なる発展ステージごとに直面するアイデンティティ問題に対する理念装置発動のプロセスとアイデンティティ形成のメカニズムについての理論モデルを提示した。 ほかにも、聞き取り調査として元宝塚劇団員へのインタビューを行った。宝塚学校時代の教育経験、仕事・舞台に対する思い、タカラジェンヌがどのように理念を実行するかについての調査を目的としたものである。ここでは、フォーマルとインフォーマルなネットワークの両方でトレーニングを受け、「規範」である「すみれコード」を守ることで理念を実現しようとすることが明らかになっている。 三年目は前述の通り追跡調査と事例研究の両方を進めてきた。追跡調査では、組織と個人レベルの両方で価値観に関わる認識と行動に関する調査を行った。また、事例研究では、理念を装置とするアイデンティティ・ワークのマネジメントのダイナミズムを探索した。以上の進捗状況より、本研究は当初の計画に対して、概ね計画通りに実行できたものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究はほぼ当初の計画通りに展開する。主に三つの部分に分けて推進する予定である。 まずは、グループを分けて実験を行い、理念に基づく価値観の浸透のレベルの高い企業と低い企業、環境変化の高いと低い状況というように四つのカテゴリーに分類してグループ化する。その上で、これらの四つのグループの理念に基づく行動の違いがどのように異なるかを確認する。 次に、二年目と三年目で収集した調査データの分析を行い、各変数間の関係について、理論モデルの検討を踏まえた検証を行う。具体的には、企業のミッション・アイデンティティに関する認知、上司のリーダーシップと企業組織の置かれた環境との間の相互作用等が組織レベルの心理的資本と意味付けを媒介として、個人の心理的資本や仕事への意味付けが動機付けに対してどのような影響を与えるかを、共分散構造モデルを通して検証する。 最後に、従来の理論モデルの検討を踏まえて、企業のケース・スタディをさらに追加する。具体的には、オムロンと三井物産の事例を取り上げて、両者の理念がどのように外的環境の変化や内部の発展段階ごとに変容するのか、さらにこれらの変容がどのような活動を通じて個人の行動変容を引き起こすかなどを検討する予定である。
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Causes of Carryover |
物品が予想より数百円程度安かった。
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