2019 Fiscal Year Research-status Report
公共部門の外部組織利用を通じた自己革新メカニズムおよびその社会心理学的背景
Project/Area Number |
18K01795
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
藤井 大児 岡山大学, ヘルスシステム統合科学研究科, 教授 (50346409)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
細川 宏 (金治宏) 中京学院大学, 経営学部, 准教授 (20758651)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 共生型デイサービス / 資源循環 / 観光資源開発 / 離島振興 / 行政組織の自己革新 |
Outline of Annual Research Achievements |
主たる研究対象として、共生型デイサービス(通称、富山型デイサービス)の事例研究を行い、研究分担者と共著でケースをまとめて公表した(金治 宏・藤井大児(2020)「富山型デイサービスの挑戦-縦割り行政を打破する-」『中京学院大学経営学部研究紀要』27,pp.13-29.)。また研究課題にある通り、地方自治体と民間企業やNPOなどとの協働を通じて地方創生を目的とした種々の成功事例について探索的な調査を行なっており、資源循環型企業の事例研究については日本経営学会誌に投稿し、審査中である。また地方の観光資源開発の事例、離島振興と教育制度改革の事例等の研究に着手している。また社会心理学的な仮説構築を目指した作業はやや遅れており、2020年度の作業として検討をしている。 上述の金治・藤井(2020)では、次のように論じた。まず(1)富山型デイサービスの特徴である「『障害の種別や年齢を超えて一つの事業所でサービスを提供する』という方式」が、いかに「縦割り行政の壁を打ち破った、日本で初めての柔軟な補助金の出し方」を可能にしたのか、そして(2)民間発の実践である富山型デイサービスがいかに国の制度として認められるようになったのかを問おうとした。そこで本ケースでは、このゆびと~まれというNPO法人と富山県との相互作用過程に着眼して、次のことを明らかにした。まず行政組織の自己革新は難しいと言われている。そこで先駆的実践をおこなうNPO法人などの外部機関との連携が有効かもしれない。すなわち相互の見解がぶつかることで新たなソリューションを生み出す可能性があり、実践の積み上げが行政組織内部での合意を段階的ではあるが得やすくする可能性がある。他方、NPO法人にとっても連携は効果的な生存戦略と言える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本申請の目指していた社会心理学的な仮説構築については、作業がやや遅れており、2020年度の作業として次のことを検討をしている。まず制度的リーダーシップないし制度的企業家という概念を中心に文献レビューを行い、これに地方の観光資源開発における行政のリーダーシップに関する事例研究をまとめて、我々が当初から目論んでいた少数派に対する多数派への説得プロセスという理論的構想に実証的な肉付けを行いたい。過去の論考(守矢 翔・藤井大児(2018)「多数派内少数者の影響力:予備的考察」『岡山大学経済学会雑誌』50(2), pp.1-10や藤井大児(2018)「日本型知識創造の理論構築を目指して」『岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要』46, pp.1-11など)では、実験心理学的な観点から仮説構築を行なっており、その作業が厳密さを欠くとの批評を受けて、社会心理学の文脈で文献サーベイを行う一方で、質的研究から帰納的にアプローチすることで欠点を補うことが、現在の我々の能力的限界を超える方法だと判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
先述の制度的リーダーシップないし制度的企業家の研究対象としては、しまなみ海道(広島県尾道市から愛媛県今治市を結ぶ一連の生活道路を指す)が、鳴門大橋・明石大橋・瀬戸大橋などと比較して低規格橋梁にも拘らず、現在では観光資源として世界中の注目を浴びるまでに成熟したプロセスを追いかけている。ただし通説的には愛媛県知事のイニシアティブによるものと理解されているところを、さらに微視的にプロセスを追い、市町村レベルで果たされた役割に対してより光を当てる。こうした質的研究を通じて得られた豊かな含意を、より理論的に凝縮して制度的リーダーシップと行政の自己革新の関係として定式化することが、今年度の作業目標となる。 また文献サーベイの対象として現在着目していることは、セルズニック以来の制度的リーダーシップが社会制度の断続的革新の過程で果たす固有の役割についてであり、よりシティズンシップを重視した社会変革のあり方、それを可能にするための行政組織等の自己革新、またそれらが現象世界にディスコースとして立ち現れてくる政治過程等という興味深いトピックを提供してくれている。こうした複雑な社会過程を複雑なままに描き出すことは、我々が当初から目論む社会心理学的な仮説構築、さらには量的な仮設検証作業とは逆行する作業と言えるかも知れない。他方で今日のディスコース分析や質的研究支援ソフトの活用により、一定の解決が図れるとの見通しがある。特に質的研究支援ソフトの活用法について研修を受けたところ、質的研究に対する量的分析手法の応用が可能なことが明らかになったので、我々の構想の先行きは決して暗いわけではないという感触を得ている。 他方、申請段階で構想していた海外調査は、文献サーベイの中での議論に留めたいと思っている。国際比較をするほどに我々の仮説は精緻化されたものではないためである。
|
Causes of Carryover |
特に大きな金額とは言えず、次年度の研究費として活用したい。
|
Research Products
(1 results)