2021 Fiscal Year Research-status Report
サイエンスが浸透した社会におけるイノベーションの理論基盤の整備と経験的研究
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18K01836
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松嶋 登 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (10347263)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 物質性概念 / 価値評価研究 / サイエンス・ベースド・イノベーション / カーボンニュートラル社会の実現 / 健康経営 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は,昨年度に計画した四点の計画に基づいて研究を推進してきた.第一に,2020年度に着手してきた価値評価研究として,健康経営銘柄の認定取得に駆動されることによって,従業員の健康よりも経済的成果を追求する手段として普及してきた我が国の健康経営に関する批判的検討をまとめ,学術論文として発表した. 第二に,2020年度に文理融合型研究を行った理化学研究所の石川哲也センター長らと,カーボン・ニュートラル社会の実現に対して政策提言を行う研究会を発足した.そこでは,自然科学と社会科学の学問的連携がいかなる実践的意義を持ちうるのかについてオープンな議論を行ってきており,2022年3月にカーボンニュートラル社会の実現に向けたシンポジウムをオンライン上で行なった. 第三に,2018年度から継続的な共同研究を通じて議論を続けてきた経営学における物質性概念について,これらの関係を体系的にまとめた英文研究書をSpringer社から出版した.本書は,単にこれまでの議論を総括するという意味合いにとどまらず,我が国の研究者が蓄積してきた経験的研究についても世界に発信していき,国際的な共同研究へ橋渡ししていくことも期待される. 第四に,最新理論である物質性概念に対して,経営学に定着させていく取り組みが必要であると考えている.具体的には,第三の推進方針で目指す物質性概念の体系化と対極的な取り組みになるが,経営学の学説的検討を通じて,物質的転回がいかに経営学の根源的見直しにつながったのかを学術的な学説研究はもちろん,大学院の演習を通じて実践してきた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一に,健康経営に関する研究は,研究代表者が共著者となって学術雑誌に投稿してきた(四方邦宗・松嶋登(2021)「経済化する健康経営:健康経営銘柄の制度化プロセスに対する批判的検討」『国民経済雑誌』第223巻, 第5号, 11-31頁).本論文は,近年,表彰制度として設立された健康経営銘柄によって加熱化する健康経営について,最新の経営学研究である価値評価研究の観点から批判的検討を行っており,価値評価研究の編著書に向けてさらに研究を進めている. 第二に,サイエンス・ベースド・イノベーションに関する文理融合型の研究成果として,理化学研究所の石川哲也センター長,東京都立大学の桑田耕太郎,神戸大学の塚原東吾と共に,定期的に研究会を行い,カーボンニュートラル社会の実現に向けた科学・社会研究会を発足させた.その上で,2022年3月に第一回のシンポジウムを開催した(カーボンニュートラルに向けて:自然科学と社会科学の連携). 第三に,経営学における物質性概念については,総勢9人の研究者と共に議論を続け,2022年3月に経営学における物質性の関係を体系的にまとめ,英文研究書を発刊した(Noboru Matsushima, Akiyuki Yatera, Mitsuhiro Urano, Naoto Yoshino, Shunsuke Hazui, Sho Nakahara, Kohei Kijima, Keitaro Kuwada and Tadashi Takayama (2022) Materiality in Management Studies: Development of the Theoretical Frontier, Springer).本書は,経営学における物質性概念を単にまとめただけではなく,我が国の新進気鋭の9人の研究者による,経験的研究の成果を世界に向けて発信した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,以下の三点について研究を注力していく. 第一に,もともとの研究計画に即した研究推進として,2021年度に理化学研究所の石川哲也センター長らと発足した研究会を基に,継続的に研究会およびシンポジウムを開催していく予定である.そこでは,自然科学と社会科学の学問的連携がいかなる実践的意義を持ちうるのかについてオープンな議論を行っていく予定である. 他方で,本研究は最終年度を迎え,当初の計画になかった研究を積極的に推進していく.第二に,2020年度から新たな展望として開拓してきた価値評価研究を大著となる編著としてまとめ出版する予定である.本研究は,すでに2020年度に研究代表者が共同編集責任者の一人となった学術雑誌を発刊してきた(「価値評価研究」『日本情報経営学会誌』第40巻, 第1-2号).本研究は,既にロンドン大学スクールオブエコノミクスのピーターミラー教授を招聘した国際ワークショップをもとに発展させた研究でもあり,我が国の経営学のフロンティアを指し示す決定的な研究成果となる. 第三に,これまでの研究成果を踏まえ,新たに異種混淆エコシステムに関する国際的共同研究に着手する.物質的転回は,今日の環境問題にも顕れているように,科学をはじめたとした人間の知的優位性を前提とする人間主義の限界を超えることを目的とし,価値評価研究は,経済的な計算や数値化された実践の批判を通じて,新自由主義を超えた新たな社会のあり方を探求するものである.本研究では,これらの共通した関心を異種混淆エコシステムとして捉え直し,経済的利益を求める企業やビジネスシステムを超えて,地域社会や自然環境を含んだより広いエコシステムの形成を問う.こうした関心は,既に学際的研究領域であるツーリズム研究の研究課題として示されおり,国家レベルの比較研究を通じて新たな社会のあり方を探求する国際的な共同研究が求められている.
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Causes of Carryover |
(理由) 当初は,コロナ禍において新たな生活様式が脚光を浴びたニュージーランドにおいて,国策として推進されているウェルビーイング・バジェットのもとに推進されている価値評価実践との対比を行う共同研究を計画していたが,昨年に続くコロナ禍の影響によって,海外渡航費をはじめとした経費を支出することができなかった. 他方で,オンラインでの議論には着手しており,同じくオセアニアのオーストラリアにおいて,持続可能なツーリズム開発と経済的な成果を超えた社会的インパクトの評価に関心を持つ研究者とのコンタクトもあり,JSPS外国人特別研究員(短期)にも採択され,国際共同研究を推進する予定であったが,コロナ禍の影響によって訪日も度々延期されてきたため,共同研究に必要な支出ができていない. (使用計画) 2022年度は,国際共同研究のための海外渡航費や,海外研究者を交えた共同研究に必要となる実地調査や研究環境の整備のための費用を支出する予定である.もちろん,コロナ禍が続く場合には,オンライン等での共同研究を推進する必要があり,そのための通信環境の整備を見込んでいる.
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Research Products
(2 results)