2019 Fiscal Year Research-status Report
ハイブリッド組織形態のコレクティブインパクト促進への可能性
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18K01860
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
佐々木 利廣 京都産業大学, 経営学部, 教授 (80140078)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | コレクティブインパクト / 協働 / バックボーン組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度(2018)に欧米のコレクティブインパクトの議論整理と日本への応用可能性の検討を一部終え、今年度(2019)はコレクティブインパクトとハイブリッド組織形態の関連について外部有識者4名を交えた研究会を開催した。コレクティブインパクトについては、日本ではまだ一部の例外を除き成功例は少ない。その理由として、共通のアジェンダが共通評価の仕組みが上からのトップダウンで策定されることが多く、下からのボトムアップ型の参加志向になっていないこと、効果的な連携や協働の過程についての知識が共有されていないこと、またバックボーン支援組織としての中間支援組織が未成熟であること、必要な資金や人材が十分に確保できないこと、などが提起されてきた。 米国で2011年にコレクティブインパクトの考え方が提示されて以降、積極的推進派と消極的批判派が混在しているのが現状であるが、そうした賛否双方の流れを整理し次のステージへの移行を提案するコレクティブインパクト3.0(タマラック研究所)の議論も現れている。 昨年度の研究会においては、こうした視点をもとに日本でのコレクティブインパクトの定着を阻害する3つの陥穽を提案した。第一の陥穽は「ノウハウ化の罠」である。それはコレクティブインパクトをモデル化することやマニュアル化することに対する危険性である。第二の陥穽はラベリングの罠である。J.Kania&M.Kramerが提起したコレクティブインパクトの5つの条件をもとにコレクティブインパクトかどうかを判別するという危険性である。そして第三の陥穽はアウトカムとインパクトを混同することの危険性である。すなわち短期的成果と長期的成果を混同することから生れる罠である。こうした陥穽に陥ることなく日本での定着をどのように進めていくかが今後のテーマになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、コレクティブインパクトの3つの発展フェーズをもとに、欧米あるいは日本のケースを再評価することができた。フェーズ1.0は、FSG提案(2011)以前に多様なアクターがFSGのフレームワークを参照することなく活動していたフェーズである。フェーズ2.0は、FSG提案(2011)公表後5年の間にFSGのフレームワークをもとに活動を行い体系化を試みてきたフェーズである。そしてフェーズ3.0では、より進化した5つの特徴を提示することでフェーズ2.0のコンセプトを見直そうとしている。この3つのフェーズ区分をもとに、日本での事例を収集整理することができた。 日本各地でもコレクティブインパクトの萌芽ともいえる取り組みが多いことも事実である。たとえば北海道下川町は、人口約3400人で高齢化率約39%の小規模過疎地域であり少子高齢化が顕著な課題先進地域といえる地域である。この町が、平成29年度の第1回ジャパンSDGsアワード受賞団体に選ばれている。町の憲法とも言われる下川町自治基本条例に,持続可能な地域社会の実現を位置付け、森林総合産業の構築(経済)、地域エネルギー自給と低炭素化(環境)、超高齢化対応社会の創造(社会)に統合的に取り組んでいる。こうした取組を通じて誰もが活躍の場を持ちながら良質な生活を送ることのできる持続可能な地域社会の実現を目指している。北海道下川町では、行政や企業やNPOなど多くのセクターに所属する組織が全体としての成果を上げるために協働をおこなってきた歴史がある。こうした協働の歴史をコレクティブインパクトの視点から整理することができた。さらに、鹿児島県のTen-Labのケース、島根県雲南市での取り組み事例、若者アッププロジェクト、祇園祭ゴミゼロ大作戦の取り組み、など日本のコレクティブインパクトの萌芽的ケースについて当事者と情報交換ができたことも収穫であった。
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Strategy for Future Research Activity |
2011年に『スタンフォード・ソーシャル・イノベーション・レビュー』誌に掲載された論文によって、それまで全米各地で実践的取組がなされてきたコレクティブインパクトが一つのモデルとして紹介され、それ以降ブーム的色彩をおびながら全米各地はもちろんのことオーストラリアやヨーロッパ、さらにはアジア各国に浸透していった。ただ日本での現状は、資金的支援を行う財団やバックボーン組織などのインフラが弱いという点、サポートするセクターとしての行政も過去に実践した協働モデルが少ない点、資金面での限界や縦割り組織の弊害による管轄をまたぐ問題への対応力の弱さ、企業側も社会課題について共通認識を持つことへの課題などもあり、まだコレクティブインパクトを生み出す基盤づくりが求められている状況である。 これまで調査してきた鹿児島県、北海道下川町、福井県池田町、島根県雲南市、若者UPプロジェクトなどを分析しながら、さらに多くのコレクティブインパクトの取り組み事例を調査する計画である。こうした作業を通じて、欧米とは違った日本流のコレクティブインパクトについての提案作業を進めたい。
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Causes of Carryover |
2020年2月から3月にかけて予定していた国内研究会への参加と国内調査予定が、新型コロナウイルス感染リスク回避のため中止を余儀なくされた。なお2020年度中には再度研究会の開催と国内調査を予定している。
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