2018 Fiscal Year Research-status Report
ファミリービジネスの競争優位の源泉としてのファミリー性についての研究
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18K01864
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
上野 恭裕 関西大学, 社会学部, 教授 (30244669)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ファミリー性 / 競争優位 / ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は本研究の初年度であり、主に資料収集と事例研究を行った。まず本研のテーマであるファミリー性について文献資料を収集し、概念の明確化を行った。ファミリー性とは「ファミリー,個人およびビジネス間のシステム相互作用から生じる,企業固有の資源並びにケイパビリティーの束」であり、ファミリー企業内の様々な関係性を説明する概念である。この様々な関係性はブラックボックス的に議論されてきたが、Pearson, Carr, and Shaw (2008) は社会関係資本の観点から、このファミリー性を議論した。彼らはファミリー性が構造次元、認識次元、関係性次元の三つの次元により構成され、互いに影響を与え合うものとしてモデル化を行った。 これらの先行研究をもとに、事例研究を行った。事例研究としては、エノキアン協会のメンバー企業である岡谷鋼機と月桂冠について分析を行った。岡谷鋼機は企業の社会的責任を重視し、次代へ繋ぐことのできる企業価値の創造を目指している企業である。積極的な事業展開を行い、多角化企業に成長している。月桂冠も同様に、技術革新を重視し、新設備への積極的な投資を行い、多角化企業としての成長を目指している。これらの企業は、それぞれファミリーネットワークによる強い紐帯を維持し、家業存続の経営理念の共有をはかると同時に、外部のネットワークであるエノキアン協会に参加するなどして、長期存続と社会貢献の経営理念の再確認を行っていることが明らかとなってきた。 以上の事例研究より、エノキアン協会に加盟している長寿ファミリー企業は競争優位の源泉となる「ファミリー性」を有していることが明らかとなってきた。このような研究成果をもとにインドで開催された学会(Seventh Asian Invitational Conference on Family Business)で報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、文献の収集、資料の収集は順調に行われており、これまでのところ研究は順調に進展している。また、他大学の研究者と学会において議論を行い、研究上の問題の絞込みを進めている。 統計データの収集やデータベースの構築は、非上場企業が多いファミリービジネスの特性を反映して、若干遅れているが、上場企業を中心として、おおむね順調に進展している。 また、現段階の研究アイデアやこれまでの事例研究を学会で報告することができており、学会でのペーパー作成など、研究成果の報告、情報発信、それに基づく意見交換なども順調に進んでいる。 以上により、研究はおおむね順調に進んでいると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は収集した文献を読み込み、批判的検討により、問題の更なる明確化を行うと同時に、インタビュー調査実施へ向けた準備を行う。ならびに質問票調査のデザインをさらに精緻に行い、質問票調査の実施に向けたパイロット調査を行う。また学会発表を踏まえて論文を執筆し、研究成果を発信し、得られた発見事実の妥当性を検証していく予定である。
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Causes of Carryover |
海外のファミリービジネス経営者との日程調整がうまくいかず、予定していたインタビュー調査が延期になり、旅費に未使用分が生じた。また、未上場ファミリービジネスのデータベース作成のための統計資料が整備されておらず、資料収集のための費用に余分が生じた。次年度は日程調整を進め、海外ファミリービジネスの経営者へのインタビュー調査を進めると共に、非上場企業のデータベースの整備を進める予定である。
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