2018 Fiscal Year Research-status Report
経営者報酬とコーポレートガバナンスに対する会計基準および税制の影響に関する研究
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18K01909
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
鈴木 一水 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (90235937)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 税務会計 / コーポレートガバナンス / 経営者報酬契約 / 税務計画(タックスプランニング) |
Outline of Annual Research Achievements |
わが国における経営者報酬制度の商法(会社法)および税制上の歴史的変遷をまとめたうえで、現在、経営者インセンティブ報酬として採用されている各種報酬の特徴、インセンティブ効果、会計処理および税務上の取扱いを整理し、次年度以降の実証分析の準備として、日経225インデックス構成企業の経営者報酬の採用状況を調査した。 現在採用されている経営者インセンティブ報酬は、現金報酬、株式報酬、ストックオプション報酬と多岐にわたっている。しかし、経済産業省主導で進められているインセンティブ報酬とくに株式報酬の採用の動きに、会社法の整備が追い付いてないため、会計処理方法も不明確な部分が残されており、その結果、税務上損金算入可能な税制適格業績連動報酬に該当する株式報酬の範囲が限定され、それが株式報酬の普及やコーポレートガバナンスの改善を通じた企業価値向上の妨げとなっていることが明らかになった。 わが国の大企業による経営者インセンティブ報酬の採用状況に関しては、インセンティブ効果の弱い役員退職慰労金制度をほとんどの会社が廃止し、かわりに株式報酬制度へ移行していることがわかった。また、従来、インセンティブ報酬の代表とされてきたストックオプション報酬としては、株式報酬型ストックオプション(いわゆる1円ストックオプション)が圧倒的に多く、税制適格ストックオプションの採用は少数にとどまることもわかった。ただし、新規にストック・オプションを提供する会社は減少傾向にあり、やはり株式報酬に移行する傾向にある。株式報酬としては、株式交付信託を通じたものが多く採用されており、譲渡制限付株式の採用を上回っている。 さらに、経営者インセンティブ報酬に対して税制が整備されたにもかかわらず、税コストを減少できる税制適格業績連動給与の採用が少ないことも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり、経営者報酬に関する会社法制、会計規制および税制の歴史的展開を整理し、各種の経営者インセンティブ報酬のインセンティブ効果、会計処理および税務上の取扱いを整理することによって、各種報酬に伴うエージェンシーコスト、税コストおよび財務報告コストを明らかにできた。さらに、実態調査によって、大企業では、税コストを節約できる税制適格業績連動給与の採用が著しく少ないことを明らかにした。 しかしながら、大企業において税コストを節約できる税制適格業績連動給与の採用が著しく少ない要因を明らかにしようとした予備的実証分析では、エージェンシーコスト、税コストおよび財務報告コストの3つの間のトレードオフ過程を明確にすることができなかった。これは、次年度以降に予定している実証分析にとっての大きな課題となる。 以上の理由から、「(2)おおむね順調に進展している」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
[2年度(2019年度)]研究計画を大きく変更する予定はない。当初の計画どおり、まずコーポレートガバナンスの重視される上場企業における経営者報酬の採用状況を、有価証券報告書を通じて調査する。次に、前年度に構築した理論モデルに基づいて、2016年度税制改正で拡張された税制適格業績連動給与の採用と、ストックオプション、譲渡制限株式および株式交付信託を使った株式報酬の採用に関する仮説を設定する。その後、企業財務に関するアーカイバルデータを用いて、企業特性が経営者報酬に及ぼす影響を主に重回帰分析によって検証する。ただし、本年度における予備的分析では、税制適格業績連動給与採用の要因を明確にできなかったので、実証モデルの再検討を行うことにする。並行して、研究経過を国内外の研究会や学会で報告し、批判的検討を受け、リサーチデザインを精緻化する。 [3年度(2020年度)]引き続き、実証研究を行うとともに、その結果を国内外の学会等で報告し、批判を受け、理論の再構築と精緻化を進める。特に、企業の税コスト、財務報告コストおよびエージェンシーコストに作用する企業の所有構造や資本構成、企業規模、企業年齢、限界税率、従業員や取引先との関係、経営者報酬の開示状況などの企業特性が、業績連動報酬や各種株式報酬の採用に及ぼす影響を明らかにする。最後に、得られた研究成果を学術論文としてまとめ公表する。
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Research Products
(4 results)