2018 Fiscal Year Research-status Report
費用と収益の対応関係に収益認識基準が与える影響の分析
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18K01913
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
三浦 敬 横浜市立大学, 国際マネジメント研究科, 教授 (50239183)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
張 櫻馨 横浜市立大学, 国際マネジメント研究科, 教授 (70404978)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 費用と収益の対応 / 収益認識 |
Outline of Annual Research Achievements |
資産負債アプローチが損益計算の中心に据えられてきたことにより、この間、費用と収益との対応関係は一貫して劣化してきていると指摘する先行研究がいくつか発表されている。これに呼応するように、財務諸表が提供する情報は企業業績の予測において有用性を失いつつあるという先行研究も相次いで発表されるようになってきている。 そこで本研究では、研究初年度に当たり、費用収益の対応関係と財務諸表の提供する情報の有用性に焦点を当てた先行研究を収集し、レビューすることから着手した。関連する学術誌に掲載された論文、および未発表のワーキング・ペーパーの収集とレビューはもとより、本研究に着手する端緒となったオーストラリア・ニュージーランド会計・財務学会にも引き続き出席し、関連するコンカレント・セッションへの参加を通じて、現地研究者との意見交換も行った。 こうした調査と分析の結果、ならびに海外との研究者との意見交換から、資産負債アプローチが比較的早い段階から会計基準に導入されているところほど、費用と収益との対応関係の希薄化が進んでおり、それによって財務諸表情報の有用性が低下している可能性があることが示唆されていた。また、国際財務報告基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」が導入されれば、企業の収益計上のタイミングをさらに遅らせる可能性が強まり、対応関係の希薄化がさらに進んでいく傾向が見られることも示唆されていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究の2018年度に予定していた作業は、「5.研究実績の概要」でも触れたように、(1)資産負債アプローチの導入と費用と収益との関係の希薄化の因果関係について焦点を当てた先行研究を収集してレビューをすることに加えて、こうした希薄化と財務諸表の有用性との関係について踏み込んだ先行研究についても収集して分析していくことと、(2)IFRS第15号・米国会計基準(ASC)第606号「顧客との契約から生じる収益」の設定にあたって、国際会計基準審議会(IASB)や米国財務会計基準審議会(FASB)に寄せられたコメント・レターや企業会計基準第61号「収益認識に関する会計基準」の設定にあたって日本財務会計基準委員会(ASBJ)に寄せられたコメント・レターの分析を通じて、新基準が費用と収益との対応関係に与える影響を分析していくこと、およびこれらの新基準からもたらされうる新たな課題を特定すること、であった。 しかし、本課題採択とほぼ同じ頃、研究代表者が不慮の交通事故に遭い、左上腕骨遠位部と左脛骨高原を骨折し、約2週間の入院と3か月の加療を余儀なくされたため、2018年度前半は研究活動が大幅に制限された、そのため、(1)については何とか概ね達成できたものの、有用性との関係については次年度も若干作業を残すこととなった。しかし残念ながら(2)についてはほぼ未着手の状況となっている。したがって、不慮の事故に遭ったとはいえ、初年度としての進捗状況は当初予定から遅れてしまっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、4年間にわたり概ね4つのステップで研究を進めていく計画となっている。ステップ1では、「5.研究実績の概要」と「7.現在までの進捗状況」でも触れたように、国内外の先行研究のレビューを通じて費用と収益との対応関係の現状分析と財務諸表情報の有用性との関係について分析するとともに、収益認識に関する新基準がもたらす影響を検討することにある。2019年度以降に着手するステップ2では、わが国における費用と収益との対応関係の変化を分析するとともに、こうした変化が財務諸表情報の提供する予測可能性に与える影響を分析する。 2020年度以降は、ステップ3として、わが国企業でIFRSを導入している企業に焦点を当て、新しい収益認識基準が費用と収益との対応関係や財務諸表情報が提供する予測可能性に与える影響を分析する。また、ステップ4として、新たな収益認識基準の導入後に財務諸表情報の有用性を大きく高めた企業と、逆に有用性を大きく低下させた企業とを抽出し、こうした企業の収益と費用との対応状況、新たな収益認識基準の特性とを照らし合わせて、損益計算における課題を抽出していく。 初年度でステップ1で未了の作業が残ってしまったため、2年目はこうした作業と本来2年目で取り組むべき作業を研究分担者とともに並行して行っていく予定である。2年度単年度ですべてをリカバーするのは困難かもしれないが、こうした遅れは残された研究期間で配分しながら、徐々に遅れを取り戻していく計画である。
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Causes of Carryover |
「7.現在までの進捗状況」でも触れたように、本課題採択直後に研究代表者が不慮の交通事故に遭い、左上腕骨と左脛骨を骨折し、約3か月の加療を余儀なくされたため、初年度前半は研究活動が大幅に制限されたため、当初予定した収益と費用の対応関係の希薄化が財務諸表の有用性に与える影響については先行研究のレビューが充分にできなかったこと、ならびに新基準の設定プロセスにあたって各基準設定機関に寄せられたコメント・レターの収集と分析について未着手となってしまったことから、研究活動を当初の予定どおり進めることができず、結果的に次年度使用額が生じることとなった。 そこで2年目では、当初から予定していた、わが国における費用と収益との対応関係の変化を分析を行うとともに、こうした変化が財務諸表情報の提供する予測可能性に与える影響についての分析と、初年度に完了することができなかった上記の作業とを同時並行で進めていく予定である。ただ、初年度の進捗の遅れは、不慮の事故があったとはいえ深刻であるため、2年度単年度で完全にキャッチアップできない可能性も残されている。その場合は、残された研究期間で配分しながら、徐々に遅れを取り戻していく計画である。
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