2020 Fiscal Year Research-status Report
費用と収益の対応関係に収益認識基準が与える影響の分析
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18K01913
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
三浦 敬 横浜市立大学, 国際商学部, 教授 (50239183)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
張 櫻馨 横浜市立大学, 国際商学部, 教授 (70404978)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 費用と収益の対応 / 収益認識 / 資産負債アプローチ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、a.現時点におけるわが国企業の費用収益対応関係、b.新しい収益認識基準のもとにおけるわが国企業の費用収益対応関係と、c.aとbのそれぞれがアナリスト業績予想の精度との関係を明らかにすることである。 前年度までの作業を通じて、①費用収益対応関係が劣化していると結論付けている先行研究と、そうでないものの両方が存在していることと、②①の劣化をもたらす原因の1つとしては、資産負債アプローチへの移行が原因であることを明らかにしている。それにもかかわらず、なぜ基準設定機関は資産負債アプローチへの移行を決めたかを探るため、3年目(2020年度)では、学術の視点(研究結果)から①の劣化をもたらす原因の究明を引き続き行いながら、費用を収益に対応させる(matching)ことに対する基準設定機関の見解の変遷をサーベイすることにした。 matchingの重要性を最初に取り上げたのは、1940年に公表されたPaton and Littleton (P&L)の論文である。それ以前、米国では公正価値・貸借対照表重視であった。P&L(1940)において、その理由として挙げられたのは、投資家にとって企業の価値は継続的な経営活動から生じる結果であり、資産・負債の処分価値ではないということである。また、matchingを適用した利益の方が将来利益の予想に役立つとも主張している。この論文は、学術、実務家と基準設定機関を巻き込み、1世紀にわたる議論の幕開となった。 matching作業の妥当性については、学術と実務家で賛否を二分し、いまだに決着がついていない。一方、matchingの適用から生じる利益操作を危惧し、1985年まで基準設定機関がmatchingという用語を明記することはなかった。 上記から、①の劣化は、matchingの支持者の主張をそのまま反映した結果であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
「5.研究実績の概要」で触れた本研究の目的を達成するため、3年目の今年度では、サンプル企業を特定し、検証に必要なデータを収集する作業を実施すると計画していた。しかし、1年目に交通事故で左上腕骨遠位部と左脛骨高原骨折した。2年目に左足を再び(大腿骨)骨折したことに加え、1年目に骨折した左肘に埋め込まれたプレートの抜釘手術を受けた。2年連続入院した上で、退院後の車いす生活によって研究活動が大きく制限された。 今年度はコロナ禍で授業が急遽オンラインに切り替わることとなった。オンライン講義の進め方であったり、それに適する講義資料を新たに作成したりするために多くの時間を費やした。その結果、研究活動に従事する時間を大幅に減らさざるを得なかった。さらに、出校が制限されたため、データベースを思う存分使用することができなかった。 けがによる遅れを取り戻すため、3年目の研究計画を見直した。その結果、「5.研究実績の概要」にあるように、まず行ったのは、1930年代から現在に至るまで、学会の視点から費用と収益との対応関係の変化を時系列にトラッキングすることであった。また、このような変化には、matchingに対する基準設定機関の姿勢が大きく影響を与えているのではないかと考え、当初の計画になかったmatchingに対する基準設定機関の見解の変化を調査することにした。さらに、学会と基準設定機関の両者が相互に与える影響のサーベイも行った。 検証作業は遅れたが、以上のように研究計画を見直して計画段階で予見できなかった費用収益対応関係に変化をもたらす原因の特定に新しい要素を付け加えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画を作成した当初、本研究は学術的視点のみであったが、「7.現在までの進捗状況」に触れたように、3年目の作業を通じて、費用を収益に対応させることに対する基準設定機関の見解の変遷と、それをもたらす背景を把握することができた。また、学会の中でも、賛成・反対意見の理由が複数存在し、そのうち主流となる意見は時代などによって異なることも明らかとなった。このような3年目の作業を通じて、本研究を以前とは異なる視点からみることができた1年間であるといえる。 来年度中に、「5.研究実績の概要」で触れたaからcの3つの作業を全部終わらせることを予定していたが、コロナ禍がいつ収束するかわからない現状を考えると、なかなかハードなスケジュールになるといわざるをえない。そこで、aからcの作業に優先順位をつけることにした。 aの検証は、これまでの作業で得た知見を最も活かせると同時に、aの結果は、新基準による影響を解明するのに必要な情報である。そこで、今後はa.現時点におけるわが国企業の費用収益対応関係の検証を優先的に行うことにした。また、アナリスト予想は予定通りに取得しているため、4年目にはできれば、cの検証の一部であるaがアナリストの業績予想に与える影響も検証できればと考えている。
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Causes of Carryover |
そもそも本研究は、海外の大学に調査に行ったり、学会に出席したりして、海外の研究者との交流を通じて、得た意見やアドバイスから構築されたものである。そのため、このような交流は本研究の鮮度を保つために必要なものである。しかし、3年目に予定していたこういった国際交流は、すべてコロナ禍で実行できなくなった。その結果、その予算が4年目に繰り越すこととなった。 時差などの関係で、オンラインによる交流は困難である。4年目は大幅に遅れた研究計画を取り戻すために、許される限り計画以上に精力的に海外の大学か学会に出向きたいと考えている。
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