2021 Fiscal Year Research-status Report
戦略と予算の設定・経営者予想利益のラチェットとの関係の検証
Project/Area Number |
18K01918
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
矢内 一利 青山学院大学, 経営学部, 教授 (10350414)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 戦略特性 / 戦略タイプ / 予算(業績目標) / 経営者予想利益 / ラチェッティング / コミットメント / ラチェット効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、Miles and Snow(1978)の戦略タイプ(探索型・防衛型・分析型・受身型)と予算のラチェッティングとの関係に関連する先行研究のレビューをまず行った。先行研究では、①過去の業績に基づく業績目標の改定はエージェントに業績を低めに見せる逆のインセンティブを与えるという「ラチェット効果」を生じさせること、②ラチェット効果に伴い、エージェントの業績目標を達成困難な水準に設定しないというプリンシパル側の意思決定である「コミットメント」が存在すること、③コミットメントが強く(弱く)なると予算目標のラチェッティングの程度が弱まる(強まる)こと、④エージェントが直面する環境の不確実性が高まるほど、プリンシパルのコミットメントの程度が強まることなどが判明している。 以上を踏まえて、(質問票調査である)2015年度産学共同研究調査の回答データ、予算と関連が深い経営者予想利益(決算短信における予想利益)、財務データを用いて、各戦略特性が予算のラチェッティングに与える影響について探索的検証を行った。 分析の結果、①防衛型と受身型はともに戦略特性が強まるとコミットメントの程度が弱まり、経営者予想利益のラチェッティングの程度が強まること、②分析型では戦略特性が強まるとコミットメントの程度が強まり、ラチェッティングの程度が弱まること、③探索型はその戦略特性が強まっても、有意にラチェッティングの程度が強まりもせず、かつ弱まりもしないことが判明した。以上のことから、間接的ではあるが、予算目標の設定に企業の戦略が影響を及ぼすことが判明した。また、経営者予想利益の設定についても企業の戦略が影響を及ぼすことが明らかになった。これらの分析結果は、戦略タイプと予算管理システム(業績管理システム)との関係、戦略タイプと外部報告システムとの関係についての経営戦略論を補完するものともいえよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べたように、Miles and Snow(1978)に基づく戦略タイプの諸特性と経営者予想利益のラチェットとの関係については、一通り分析結果が出たところである。しかしながら、分析結果の考察をさらに深め、論文として完全にまとめるには至っていない。分析結果を考察する際には、戦略と予算の関係、予算のラチェッティングについての最新の実証研究をレビューする必要があると考えられる。また、分析モデルの精緻化も必要と考えられる。さらに、以前に行った2015年度産学共同研究調査では予算(業績目標)のラチェッティングについても質問を行っているが、この回答データについての分析もまだ詳細に行えていない。 以上のことから、本研究課題について一通りの分析は終えており、おおむね順調に進展していると言える。しかし、分析手法・分析モデル・分析結果の考察については、まだ改善の余地があるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、戦略と予算の関係、予算のラチェッティングについての最新の実証研究をレビューをまず行うこととする。また、コントロール変数に環境の不確実性を考慮した変数を取り入れるなど、分析モデルの精緻化も行うことを考えている。特に、環境の不確実性については、2015年度産学共同研究調査の(戦略の特性を推定するために用いた回答以外の)回答データをとりいれた分析を行える可能性がある。よって、2015年度産学共同研究調査の回答データを取り入れてモデルの精緻化を行うことも予定している。加えて、先行研究に基づき、財務データを用いてMiles and Snow(1978)の戦略タイプの推定をした上で追加的な実証分析を行うことを考えている。この追加分析は、充分なサンプルサイズを確保し、分析の精度を高めるために行うものである。 以上のように研究を進めた上で、今年度の日本管理会計学会等の自由論題報告やワークショップで報告を行い、その際に論文をまとめ上げることを予定している。加えて、実証分析の結果をまとめた論文を国内や海外の雑誌に投稿することも予定している。さらに、学会で収集された意見をフィードバックすることによって、追加的な実証分析を行い、理論構築について検討を重ねることを予定している。これにより、精緻な理論の構築を行うことが出来ると考えられる。
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Causes of Carryover |
2021年度は、2020年度に引き続き、新型コロナウイルスの流行により、大学の授業がオンラインに変更されることが多くなるなど、研究に費やす時間が例年よりかなり減ることになった。そのため、論文の執筆にはある程度時間を取ることが出来たものの、Europian Accounting Association (EAA)やAmerican Accounting Association(AAA)等の海外の学会に参加することはできなかった。また、国内の学会もオンラインでの開催となった。ゆえに、旅費がまったく生じなかった。 加えて、新型コロナウイルスの流行により、大学院生をデータベースの作成等の研究補助で使うために対面で指示を行うのが難しい状況であった。そもそも、データベースの作成はオンラインで指示を出して作業を行わせるのは難しい側面がある。ゆえに、人件費・謝金がまったく生じなかった。 以上のような理由により、次年度使用額が生じた。2022年度は、新型コロナウイルスの流行の状況により不確定な部分が多いが、旅費に使用する予定である。また、研究の時間は昨年度と比べて多くなる見込みなので、人件費・謝金等にも使用することは可能であると考える。
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