2018 Fiscal Year Research-status Report
監査担当パートナーにおける監査の品質の違いが利益調整に及ぼす影響に関する実証研究
Project/Area Number |
18K01933
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
笠井 直樹 滋賀大学, 経済学部, 准教授 (80584143)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 監査の品質 / 監査担当パートナー / 監査人の業種特化 / 監査人の作業負担 / 監査報酬 / コーポレート・ガバナンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,個々の監査担当パートナーの提供する監査品質の違いが,経営者による利益調整行動をはじめとする利益の品質にどのような影響を及ぼしているのかについて実証分析を通じて明らかにすることである。また,この両者の関係を分析するにあたって各企業のコーポレートガバナンスの特性を考慮する。 米国におけるエンロン事件を始め,これまで各国において会計不正事件が起こる度に財務報告の品質を保証する財務諸表監査の役割に対して疑念が向けられてきた。わが国においてもカネボウの粉飾決算事件やオリンパス事件,東芝事件などの会計不正事例を通じて明らかにされているように,各監査人によって提供される監査の品質は異なっており,それは結果として財務諸表監査を受けている企業の財務報告の品質に影響を及ぼすのである。 これまでの公表データを利用した監査研究では,監査事務所レベルのデータしか利用できなかったため,個々の監査業務を担当している監査担当パートナーの特性に関する研究成果の蓄積はあまり進んでいない。しかしながら,近年,米国をはじめ各国において監査担当パートナー名が公開される傾向にあり,わが国ではかねてよりこうした情報が入手可能な状況にある。 そこで,本研究では,監査の品質に影響をおよぼす要因として監査担当パートナーの業種における業務経験年数や業種別市場占有率,監査業務に関する作業負担の程度,他にも監査報酬を用いた各監査事務所における各クライアント企業の重要性等を取り上げ,利益調整をはじめとする財務報告の品質指標との関連性を検証している。 現在のところ,監査担当パートナーの特性を測定する指標の計算・開発を進めている段階であり,財務報告品質の指標との関連性はまだ十分に検証できていないが,例えば,監査人の業種専門性を測定する新たな指標を用いて分析を行ったところ,先行研究と異なる分析結果が得られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり,本年度は分析に使用するデータ・ベースの構築を中心に分析実施環境の整備を重点的に行った。特に監査担当パートナーに関するデータおよびコーポレート・ガバナンス関連のデータの収集・指標の構築に注力した。 監査担当パートナーの個人名については利用可能な市販のデータ・ベースに収録されているが,個人名を特定しただけでは各監査担当パートナーごとの監査の品質を測定することはできない。例えば,監査担当パートナーの作業負担の程度を指標化するためには各パートナーが担当しているクライアント数を把握する必要があり,他にも各パートナーがクライアント企業の属する業種について専門的知識を有しているのか否かを把握するにも,各パートナーの業種別市場占有率や業種における監査経験の年数を測定するなどの指標化を行う必要がある。 コーポレート・ガバナンスに関連するデータに関しては市販のデータ・ベースを入手することで分析の実施が可能となった。また,ガバナンス関連で市販のデータ・ベースに収録されていないデータについては適宜手作業で収集した。 こうして分析に必要なデータ・ベースの構築を進めるとともに,一部については分析を実施している。監査人の業種専門性や作業負担の程度,報酬の多寡等,複数の監査人の特性について利益調整等の財務報告の品質指標との関連性を検証しており,個々の監査担当パートナーの特性に注目した場合,提供される監査業務の品質がことなることが明らかになりつつある。 また,本年度はメルボルン(オーストラリア)にあるディーキン大学のGul教授と研究交流を行うため現地に滞在し,Gul教授を含め当校所属の他の研究者や研究セミナー報告者等と本研究について議論を行い,多くのサジェッションを得るとともに新たな指標の開発につながるヒントを得た。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度を構築したデータ・ベースを用い,本格的に分析を実施するとともに,研究成果の公表に重点をおく。海外・国内学会における研究報告および論文の公表に注力するとともに,適宜分析の精緻化を進める予定である。 また,本年度滞在したディーキン大学および他の海外の研究機関の研究者と引き続き研究交流を行い,本研究を推進するために活用する予定である。 他にも,国内の研究会および学会等にも参加・研究報告を行い,最新の研究動向をキャッチ・アップするとともに,分析手法の精緻化を進めるための機会を確保する。
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