2018 Fiscal Year Research-status Report
Non-financial information disclosure and medium- to long-term financial market reform: an empirical study
Project/Area Number |
18K01935
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
與三野 禎倫 神戸大学, 経営学研究科, 准教授 (80346410)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 統合報告 / 非財務情報 / 中長期的な投資および融資 / 価値創造プロセス / 統合報告書 / 事業性評価報告書 / マルチステークホルダー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,中長期的な投資および融資の環境の整備に有効に機能する新たな報告システムの構築に貢献するために,とくに非財務情報の開示に着目して,具体性かつ包括性をもったデータの検証と分析結果を報告することを目的とする。そこで本研究では,わが国における非財務情報の開示が,とくに (1) 大企業を中心とした媒体である統合報告書と,(2) 中小企業を中心とした事業性評価報告書において,おおきな進展がみられることに着目し,これらの開示媒体における非財務情報の開示項目と開示形態について,中長期的な価値創造プロセスとの結び付きの観点から包括的な検証を目指していく。その第一のステップとして,平成30年度は,金融機関を対象としたインタビュー調査と質問票調査にもとづいたデータベースの構築の実施に取り組んだ。 データベースの内容は,つぎの特徴をもつ。第一に,インタビューと質問票の調査内容は,金融機関が統合報告書または事業性評価報告書を,投資または融資の意思決定に利用するにあたって,どのような非財務情報の開示項目に着目するとともに,どのようなメディアを情報源とするかといった広範囲にわたるものとなっている。第二に,インタビューと質問票の調査は,統合報告書と事業性評価報告書のステークホルダー別に実施している。それは,前者と後者では,開示の対象であるステークホルダーが大きく異なるためである。前者はひろく一般に公表されるが,後者は,一般公衆がアクセス可能である場合が多いものの,特定の金融機関や取引業者に対して公表される。インタビューと質問表を組み合わせた調査によるデータベースは,次年度以降のつぎの検証を可能とする。それは,ステークホルダーの事業特性や環境特性を考慮しながら,どのような経営指標や項目が企業価値と結び付いているか,どのような開示形態がコミュニケーションに有効かを明らかすることである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,中長期的な投資および融資の環境の整備に有効に機能する新たな報告システムの構築に貢献することを目的とする。このとき研究代表者は,非財務情報を価値創造の観点から開示している統合報告書と事業性評価報告書に着目して分析をすすめている。これらの2つの媒体は,中長期的な投資および融資市場に向けて,それぞれ別のステークホルダーに発信されている。これらの2つの媒体における非財務情報の開示項目や開示形態を分析することは,中長期的な投資および融資の環境の整備に向けた分析を実施することを可能とする。 研究代表者は,この分析を,第一に,投資および融資の市場におけるステークホルダーがどのような非財務情報の開示項目に着目するとともに,どのようなメディアを情報源とするかについてのデータベースを構築し,第二に,中長期的な価値創造プロセスとの結び付きの観点から包括的な検証することによって,推進する研究計画をたてている。第三のステップは,分析にもとづく提言と意見の発信である。これらの3つのステップを実践することによって,はじめて本研究は,中長期的な投資および融資の環境の整備に向けた報告システムの構築に貢献することができる。 平成30年度は,その第一のステップであるデータベースの構築を行うことができた。本データベースは,インタビューと質問票の調査を基礎とすることによって,第一に,金融機関が開示媒体を,投資または融資の意思決定に利用するにあたって,どのような非財務情報の開示項目に着目するとともに,どのようなメディアを情報源とするかといった広範囲にわたる内容を含むとともに,第二に,統合報告書と事業性評価報告書のステークホルダー別の内容になっており,つぎの分析のステップを推進することを可能とするものである。したがって,本研究課題の進捗は順調であると自己評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度のインタビューと質問表調査を基礎としたデータベースの構築を受けて,今後はつぎのように研究を推進する。 令和元年度は,平成30年度の結果を受けて,次の2つの実証研究を実施する。第一は,どのような経営指標を基礎としてステークホルダーに伝達することが,よりわが国企業のマネジメント層と外部のステークホルダーとの間のコミュニケーションに有効に機能するかを探求する。インタビューと質問表調査では,企業の財務,製造,知的,人的,社会・関係,自然の6つの資本と価値創造プロセス,およびリスクと機会に関する項目について,その開示実態とステークホルダーの利用実態について調査している。ここでは,投資者と金融機関の利用実態に応じて,どのような経営指標や項目が重要で,またどのような開示形態が有効かについて,統合報告書と事業性評価報告書のそれぞれについて調査する。第二は,情報内容に秘匿性等があるときの有効な開示形態について,シグナルの発信も含めて調査する。市場別,ステークホルダー別に検証することによって,新たな報告システムの提言が期待できる。 最終年度は,第三のステップである,令和元年度の分析にもとづく提言と意見の発信である。ここでは,国内外での発表を通じて研究成果をひろく社会に還元するとともに,すすめてきた研究を総合的にとりまとめ,わが国での「企業の持続可能な成長にむけたステークホルダーとのコミュニケーション構築に関するフレームオブレファレンスの構築」に向けた積極的提言を行いたい。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額は,7,132円とわずかであるが,この額は,令和元年度にデータベースの構築と分析の研究の推進を効率的に実施するために,プリンタトナーとプリンタ用紙の購入にあてる。
|