2020 Fiscal Year Research-status Report
スタートアップ企業におけるMCSの精緻化プロセスに関する研究
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18K01942
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
福田 淳児 法政大学, 経営学部, 教授 (50248275)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | スタートアップ / マネジメント・コントロール・システム / 管理会計システム / 精緻化 / 情報特性の視点 / システムの視点 |
Outline of Annual Research Achievements |
スタートアップ企業におけるMCSsの精緻化の程度およびその影響要因に関する質問票調査を行うために,本年度は精緻化という概念について文献レビューを中心に検討を行なった。精緻化は管理会計研究において多様な意味で利用されてきた。質問票調査において,精緻化という概念を使用するために,概念自体を明確に定義し,その概念を適切に操作化することが求められる(Libby et al., 2002)。また,概念とその指標間の関係を明確にする必要がある (Bisbe et al., 2007)。 MCSsの精緻化に言及した研究は,MCSsが提供する情報特性に焦点を当てた研究と,MCSsのシステムとしての特性に焦点を当てた研究とに区別できる。このうち,前者の研究は,Chenhall and Morris (1986)の研究に依拠している。ただし,Chenhall and Morris (1986)の研究が管理会計情報の範囲,適時性,集約のレベルまた統合のレベルといった4つの特性に対するさまざまな状況での有用性に焦点を当てていたのに対して,MCSsの精緻化の測定を試みた研究では,管理者が意思決定をする際にそれらの情報がどの程度実際に利用可能であるかに焦点が当てられている点が明らかになった。 他方,MCSsのシステムとしての特性に着目した研究では,精緻化をMCSsのプロセスの完全性の観点から定義した研究(例えば,Rue and Ibrahim (1998))とシステムの公式化の程度と関連づけて測定した研究が存在することが明らかになった。 さらに,本研究では,これらの複数の指標間の関係性について,Jarvis et al. (2003)の提示した決定ルールに基づいて考察を行なうことで,MCSsの精緻化は,2つの次元から構成される形成型モデルによって測定可能であると結論づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究が遅延している理由としては以下の点がある。 第1に,スタートアップ企業におけるMCSsの精緻化の程度およびMCSsの精緻化の程度に影響を及ぼすと考えられる要因を明らかにすることを目的として作成している質問票の設計に時間を要しているためである。これは,管理会計研究において精緻化といった概念が多様な意味で用いられていることも理由の一つである。また,本来の予定では,企業への聞き取り調査などを実施する過程で,質問項目の候補となる指標についての内容の確認およびそれに対する回答を聞き取るとともに,質問票に利用する際の用語などの考察を行う予定であった。そして,この作業を経て,それらの項目を質問票に落とし込むことを予定していた。しかしながら,現在の環境の中でその実施が難しかった点である。 第2に,第1の点でも述べたように,スタートアップ企業への聞き取り調査自体も実施がかなり困難な状況が続き,この点も研究の遅延に大きく影響している。
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Strategy for Future Research Activity |
スタートアップ企業におけるMCSsの精緻化の程度およびMCSsの精緻化の程度に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的として作成している質問票で使用される質問項目の用語などの確認については,スタートアップ企業のトップ・マネジメントに限らず,広く実務家に質問項目について意見を伺う形で,質問票の作成を継続する予定である。また,質問票調査を確実かつ迅速に実行するために,郵送質問票調査の他に,インターネットを利用した質問票調査も候補の一つとして考えている。 さらに,インタビュー調査が今後も十分にできない状況も想定し,企業の公表しているデータまた企業が株式市場への上場を行った時点で公表している目論見書などを参考にしながら,企業の上場に向けた取り組みについての考察を行うことで,MCSsの精緻化に影響を及ぼす要因を特定する予定である。
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Causes of Carryover |
研究資金を予定どおりに使用できなかった理由としては,第1に現在の環境のもとで,インタビュー調査を予定通りに実施できなかったことがある。第2の理由としては,海外の学会への参加がオンラインであったことから旅費や宿泊費の費用が節約できたこともある。第3の理由としては,インタビュー調査が事前に十分にできなかったことが原因となり,スタートアップ企業におけるMCSsの精緻化の程度及びそれに影響を与える要因に関する質問票調査の実施が遅延していることもその主な原因である。 今年度は,創業後あまり年月の経過していないスタートアップ企業のトップ・マネジメントを対象として,MCSsの精緻化の程度及びそれに影響を与える要因に関する質問票調査を実施する予定である。質問票調査は,郵送またインターネットを通じて実施を計画している。また,できる限りの機会を見つけて,スタートアップ企業のトップ・マネジメントに対するMCSsの精緻化およびそれに影響を及ぼした要因に関するインタビュー調査も実施したいと考えている。
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