2021 Fiscal Year Research-status Report
保守主義とキャリアコンサーンのモデル分析 -労働慣行と企業会計の関係について-
Project/Area Number |
18K01951
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
西谷 順平 立命館大学, 経営学部, 教授 (40363717)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 保守主義 / キャリア・コンサーン / 分析的会計研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、キャリア・コンサーンが会計基準設定、とりわけ会計的保守主義の最適レベルに与える影響について、多期間モデルを使った分析的研究によって明らかにすることであった。そこで核心をなす学術的な問いは「労働慣行などの外部条件のために、報酬契約の設計において硬直性がある場合には、本来、報酬契約上において調整されるべき利害が調整されず、外的条件であるはずの会計情報にバイアスをかけることで利害調整が達成されるのではないか?」というものであった。これに対して、初年度 2018年度では、キャリア・コンサーンのモデルの精査と、保守主義のモデルの精査を同時並行で進めた。二年度目に当たる2019年度では、オリジナルの保守主義モデルが複雑すぎてキャリア・コンサーンモデルへの応用が厳しいことが判明した反面、そのモデル自体にオリジナリティがあることからスピンオフの論文として公表準備を進めた。一方、前者のキャリア・コンサーンについては報酬契約が線形であるGibbons and Murphy (1992) 以外のモデルも探索するため、研究会で出版プロジェクトを立ち上げた。2020年度に、そのプロジェクトの成果として、太田康広編著『人事評価の会計学』中央経済社を出版できた。また、今世紀に入りほぼ100年ぶりに保守主義の存在感が増しており、単なるテーマの一つではなく会計学コンテクスト全体に関わっているという理解が広がったことを示す象徴として、スコット・オブライエンの研究レベルのテキストの翻訳プロジェクトを開始した。そして、2021年度に『新版・財務会計の理論と実証』中央経済社として脱稿し2022年5月に出版された。他にも、日本経済会計学会の2021年度第38回年次大会における統一論題として本研究成果の一部を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は、保守主義モデル(会計システム)をキャリアコンサーンモデルに移植して、キャリアコンサーン現象が変形し会計情報システムにバイアスをかける結果を求めるものである。上記「研究実績の概要」でも書いたように、2019年度には移植予定の保守主義モデルが複雑すぎて使えないことが判明した反面、それ自体に学術的価値があることがわかり、そちらの研究に時間を割いたほか、移植先のキャリアコンサーンモデルについても、Gibbons and Murphy(1992)では移植先としても複雑すぎるため、別のモデルを求めてサーベイを行なっていたため遅れが生じていたが、2020年度・2021年度のコロナ禍によって、オンライン授業や学生サポートなど教育負担が大幅に大きくなり、それを取り戻せなかった。さらに、2021年度には、体調を崩し、心臓の手術が入ったため夏休みに十分な研究時間を確保できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、手術から半年が過ぎ体調も戻ってきていると実感できており、また、緊急事態宣言も解かれ大学の仕事も平常を取り戻しつつある。また、2021年度の推進方策で書いていたように、コロナ対策として仕事場所を大学と自宅の両拠点として整備できている。すでに、共著書籍1冊、翻訳書籍1冊、学会統一論題などの成果は出ているが、最終年度として自分自身で納得のいく研究成果を出せるように研究生活を回復させていきたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、コロナ禍により、予定されていた海外出張が行なわれなかったためである。延長申請を前提に2022年度の海外出張を視野に入れていたが、コロナが未だ終結しておらず、さらにウクライナ戦争が年度末に勃発したことにより不確実性が高まっている。とくに、コロナによってPCR検査や待機日数が重なること、ウクライナ戦争によって飛行ルートが変更されていることなどから、海外出張にかかる日数が増えざるをえず、所属機関の教育ルール(休講の回数や感染防止など)に照らして難しい局面となっている。資金の使用計画のうち海外学会への渡航費用が多くを占めていることから、本来の使用計画に照らせば事業中断がふさわしく2023年度に持ち越しをお願いしたが、こうした理由が中断理由としては認められないことから、情勢により2022年度末に未使用が残ることを視野に入れているというのが正直なところである。
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