2023 Fiscal Year Research-status Report
保守主義とキャリアコンサーンのモデル分析 -労働慣行と企業会計の関係について-
Project/Area Number |
18K01951
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
西谷 順平 立命館大学, 経営学部, 教授 (40363717)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 保守主義 / キャリア・コンサーン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、キャリア・コンサーンが会計基準設定、とりわけ会計的保守主義の最適レベルに与える影響について、多期間モデルを使った分析的研究によって明らかにすることであった。そこで核心をなす学術的な問いは「労働慣行などの外部条件のために、報酬契約の設計において硬直性がある場合には、本来、報酬契約上において調整されるべき利害が調整されず、外的条件であるはずの会計情報にバイアスをかけることで利害調整が達成されるのではないか?」というものであった。本研究の技術的な課題は、キャリア・コンサーンのモデルと保守主義のモデルという、それぞれが複雑な数理モデルをいかに融合させ、有意義な結果を得るかという点にあった。この課題はかなりチャレンジングであり、頼りになる先行研究は存在していないこともわかっている。実際、本研究は数年かけて、これまで何度もモデルを組んでは失敗をしてきている。2022年度、2023年度は、保守主義モデルにキャリア・コンサーンの要素を組み込むという以前までのアプローチを転換し、キャリア・コンサーンのモデルに保守主義の要素を組み込むアプローチに変更した。そこでも失敗を重ねて見えてきたのは、キャリア・コンサーンの析出には「短期繰り返しゲーム+効率的な転職市場+エージェントの効用最大化問題」というモデル設計が必要である一方、アクルーアルの反転がともなる保守主義(会計情報)の分析には「長期契約+留保効用+プリンシパルの効用最大化問題」というモデル設計が必要であるため、両者の関係を分析するためには、どちらの分野にとっても新しいモデル設計のアイデアを考え出さなければならないという点であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
上記「研究実績の概要」でも書いたように、モデルの設計に失敗を重ねてきて見えてきたのは、関係性を分析しようとする「保守主義」と「キャリア・コンサーン」の相性の悪さである。キャリア・コンサーンの析出には「短期繰り返しゲーム+効率的な転職市場+エージェントの効用最大化問題」というモデル設計が必要である一方、アクルーアルの反転がともなる保守主義(会計情報)の分析には「長期契約+留保効用+プリンシパルの効用最大化問題」というモデル設計が必要であるため、両者の関係を分析するためには、どちらの分野にとっても新しいモデル設計のアイデアを考え出さなければならないという点で改めてチャレンジングな研究であることを思い知った。実際に、頼りになるような先行研究は世界を見渡しても存在していない。しかし、実社会では見られる現象であることは確かであるため、チャレンジする価値のある課題だと思っている。さらに、2020年から2022年までのコロナ禍で教育負担が大幅に大きくなった上に、2021年度には心臓手術、2022年度には家族全員がコロナ罹患し、研究のリズムが大きく崩れてしまったのも遅れには影響している。
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Strategy for Future Research Activity |
時間はかかったが課題の困難さのポイントが見えてきたことから、これまでのやり方を大きく変更することにしたい。本研究には先行研究が存在せず、(1)モデル設計に多様なアイデアが必要であること、(2)予想以上の複雑な計算が必要とされそうなことがわかってきたことから、(1)に対しては優秀な若手研究者や博士課程院生の集まる研究会やゼミ(慶應ビジネススクールの太田ゼミ、分析的会計研究会)で頻繁に進捗を発表しコメントをもらうように研究活動を外向きにアクティブにしていくことにし、(2)に対しては確率論と多期間モデルの計算に強い共同研究者(東北大学 松田先生)を立てることにし、それらにともない研究スタイルもクラウドやWebアプリを使うものに変更する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、コロナ禍により、申請時に予定されていた海外出張が行なわれなかったためである。延長申請を前提に2023年度の海外出張を視野に入れていたが、コロナがおおよそ終結したとされる5月の段階ではまだ不確実性も高く、さらにウクライナ戦争が継続中であった。とくに、コロナによってPCR検査や待機日数が重なること、ウクライナ戦争によって飛行ルートが変更されていることなどから、海外出張にかかる日数が増えざるをえず、所属機関の教育ルール(休講の回数や感染防止など)に照らして難しい局面となっている。しかし、今年度の使用計画としては、やはり本来の目的である海外学会への参加・発表、ならびに、その前段階として国内の研究会や学会への参加・発表を念頭においている。
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