2020 Fiscal Year Research-status Report
Market Responses to Management Earnings Forecast: An Analysis of High-frequency Data on the Limit Order Book
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18K01952
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Research Institution | Osaka University of Economics |
Principal Investigator |
加藤 千雄 大阪経済大学, 情報社会学部, 准教授 (90319567)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片山 東 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (00595746)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Stealth trading仮説 / Liquidity / Trade size |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は大規模投資家の投資行動の分析を行なった。従来の研究では、大口の投資家は自身が持つ私的情報が手口から他の市場参加者に漏洩することを恐れ、注文を分割し小口化して取引を行うとされてきた(Stealth trading仮説)。私的情報を察知した他の投資家の先回り取引による、取引コストの上昇を懸念するためである。このStealth trading仮説は米国市場のみならず、日本市場を対象とした実証分析でも広く支持されている。 一方日本の証券市場は、東証が出来高の8割を超え、市場の細分化が進む米国や欧州とは大きく異なる。(例えば米国では、私設市場(Dark pool)を含め50を超える市場が存在し、NYSE、NASDAQの占有率は3割にも満たない。)市場の細分化は、流動性(板の厚み)の市場間の分散を意味し、注文の小口化はこの状況への対応なのかもしれない。コスト(取引価格の予想外の変動)と執行スピードのトレードオフの関係は、市場の流動性(板の厚み)の状態に大きく依存している可能性が考えられる。そこでStealth trading仮説の分析では考察されることがなかった流動性を織り込み、実証分析を行なった。 東証上場普通株全銘柄を対象に行なった分析結果は、平均的に単位株による取引が日中の価格動向に対して最大のインパクト(価格発見機能)を持っており、Stealth trading仮説と整合的であった。しかしこのインパクトは板の厚みとともに低下し、最も流動性が高い銘柄では、ほぼ消滅していることがわかった。逆に大口注文によるインパクトは流動性とともに大きくなり、最も流動性が高い銘柄では大口注文主導により価格形成が進んでいるとの結果を得た。また追加テストの結果は、大口投資家は情報隠匿よりも執行スピードを選好している可能性を示唆しており、これら2つの結果は、投資家行動に関する新たな知見である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
今年度はコロナ禍への対応により、通期を通して講義が全面的に移行した。そのため授業準備に多くの時間を取られ、研究に振り向ける時間が取れず、計画に大幅な遅れをきたし、補助事業期間延長申請に至った。 上記「研究実績の概要」に記載した内容は、”Trading strategies for large-sized traders: role of liquidity provision”としてまとめ、現在査読誌のレビューの結果待ちの状態にある。なおこの論文は、本邦の経営者予想制度評価というテーマの前段にあたるものであり、制度評価の分析には着手したに過ぎず、作業を急ぎたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は本邦の経営者予想制度の評価を目的としている。自身で行った以前の分析の結果、大半の経営者が期首予想は増収・増益予想を公表するが、実績が期首予想を上回るケースは過半に満たないことをもって、経営者予想は楽観的であると考えてきた。また米国の先行研究では、業績予想にとどまらず経営者が行う開示一般には楽観的なバイアスがかかっている、との報告が多数存在する。こういった経営者の楽観性を所与とした場合、業績予想が投資家をミスリードしているのか、それとも投資家はバイアスを補正の上で予想情報を投資意思決定に利用しているのか?という点が本研究の問題意識であった。 しかし、以前に知見を得た2007年までの分析からさらに直近までに計測期間を延長したところ、奇妙な結果を得た。売上高予想については1999年から2019年まで、リーマンショック直後の2009年度を除く全ての年度で大半の企業が増益予想を公表しているが、予想を超過した企業が過半数を超えたのは21年度中わずか5年度しかない。経営者予想の楽観的バイスとの見方と整合的である。その一方当期利益の予想では、全ての年度で過半数が増益予想を公表し、9年度のみで半数の企業が予想超過との結果ではあったものの、2014年度以降6年度は期首予想を上回る企業が継続して50%を超えている。つまり、一貫して楽観的な売上高予想を公表する経営者は、近年ではより保守的な利益予想に転じており、先行研究が主張する「経営者の持つ、本質的な楽観主義的傾向」では説明ができない。2019年度までの数年は景況感が改善していた時期と重なる。近年の一見保守的と見える結果は、マクロ経済動向の読み違えの結果なのか、それとも何らかのシステマティックな要因が働いているのか興味深い点である。そこで、この新たな視点を加味して分析を進めていく。
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Causes of Carryover |
コロナ禍への対応により研究の進捗が遅れ、次年度への繰越となった。研究の進展とともに予算使用を計画している。
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