2021 Fiscal Year Research-status Report
Market Responses to Management Earnings Forecast: An Analysis of High-frequency Data on the Limit Order Book
Project/Area Number |
18K01952
|
Research Institution | Osaka University of Economics |
Principal Investigator |
加藤 千雄 大阪経済大学, 情報社会学部, 准教授 (90319567)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片山 東 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (00595746)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | Stealth trading仮説 / 流動性 / 大口投資家 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き、大口投資家の投資行動の分析を行った。主要先進国では投資家の利便性向上を目的に、取引所間の競争を促す政策を進めてきた。その結果、米国および欧州では市場の細分化が進んでいる。一方我が国の証券取引は、東証での取引が出来高の8割余りを占め、欧米とは異なった市場環境にある。さらに東証は、欧米で広く導入されているhidden orderとよばれる板を隠すタイプの注文方法を認めていない。この結果、日本市場は投資家にとって注文状況の観測が容易で、取引執行の不確実性が低い環境となっている。 投資家は、取引執行スピードとマーケットインパクトのトレードオフに直面している。さらに私的な情報を取引動機とする投資家には、保有する情報を秘匿するインセンティブが働くと考えられる。これらの可能性を考慮し、先行研究ではstealth trading仮説が提唱されてきた。 Stealth trading仮説では、私的情報を持つinformed tradersは取引を通じて自身の情報が市場に伝わることを回避するため、注文を小口に分けて市場に送り、時間をかけて取引を実現すると考える。さらに仮説は、informed tradersの取引が特定の取引サイズに集中するため、そのサイズの取引が市場価格を先導すると予想する。 しかし上述のような日本市場の特殊性から、東証では小口取引が価格発見を必ずしも主導していない可能性が考えられる。私的情報を持つ投資家であっても、板の状況に応じて発注数量を変えるとも考えられるためである。そこで、東証全銘柄を対象に実証分析をおこなった。分析結果は、大口取引(小口)の価格インパクトは上昇(低下)する結果となった。また大口投資家は、情報の秘匿よりも取引の執行スピードを、より選好しているとの結果も得た。新しい知見である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
前年度に引き続きコロナ禍への対応により、研究に振り向ける時間を十分に取れず、補助期間延長申請にいたった。流動性(板の厚み)の上昇とともに、よりサイズの大きな注文が価格決定力を持つことは明らかになった。しかし流動性の上昇とともに、より大きな取引(より小さな取引)が占める比率は上昇(下降)しており、私的情報に限らず公的な情報が取引を誘引し、価格形成に至ると考えるpublic information仮説からの識別が難しい。この疑問の解消が次年度への課題として残った。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究計画ではまず、①投資家、特に大規模投資家の行動様式を明らかにし、さらに②経営者の開示行動の特性分析を経て③投資家の開示情報の評価を通じて、開示制度の評価を目的としてきた。計画遂行の大幅な遅れは否めない。上記①の完成と並行して②の分析の深化をすすめ、③の議論の展開を急ぎたい。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍への対応により研究の進捗が遅れ、次年度への繰越となった。研究の進展とともに予算使用を計画している。
|