2020 Fiscal Year Research-status Report
日本の河川事業における環境制御システムの変化および現状の評価に関する研究
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18K01956
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
角 一典 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (10312323)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 河川官僚 / 河川法改正 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、河川に関わる年表作成の作業を進め、特に明治以降の河川事業の推移について大きな流れを再確認することができた。治水中心の1896年河川法から、利水を視野に入れた1964年河川法改正までの期間は、日本の近代化の進展とともに河川の意義が変化していく過程でもあり、それは、制御の対象であると同時に、日本にとっての有力な資源として目され、その開発が、法整備に先んじて進んでいき、後追い的に法律でのコントロールを試みる姿が顕著であると同時に、戦前から連綿として続く、水利権をめぐる省庁間の争いと駆け引きの連続でもあった。そうした縦割りの状況が、河川行政にとっては足かせとなりながら、今日を迎えている。 また、河川官僚の残した大量の文献を読み込む作業を進め、今年度については、1997年河川法改正に関わった近藤徹と青山俊樹の二人に焦点を合わせ、分析を試みた。一般に、改革に後ろ向きとされる河川官僚の中でも、かなり考え方の違いがあり、二人は相対的に改正に前向きな立場にいた。1997年の河川法改正は、環境の要素を取り込んだ点で評価されつつも、それの影響もなく巨大河川施設の建設が進められていく状況に国民は不信感を持つにいたり、『脱ダム』の流れが創り出された。その背景の一つは、河川局に集う官僚に対する不信感でもあった。しかしながら河川法改正は、以前から継続していた河川局内の検討を踏まえつつも、1980年代後半に浮上した長良川河口堰問題への対応のまずさを受け止め、新たな河川行政の在り方を検討した結果でもあった。しかしながら、治水安全度および利水安全度に関する河川官僚の認識はシビアで、脱ダムが言うような設備過剰の状態にあるという認識はなく、さらなる河川設備の強化が不可欠であるという認識が、河川官僚の中に共有されている様子が、二人の言説から垣間見える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
河川官僚の諸資料をはじめとする文献収集および読み込みについては順調に進んでおり、基礎資料の蓄積は一定の成果を収めているといえる。しかし、昨年からのコロナの影響により、フィールドワークはきわめて大きな制限がかかってしまっているため、予定していた調査をほとんど実施することができなかった。また、フィールドワークについても、やや目的意識の整理が甘く、これまでに、かけたコストに見合うだけの成果を十分には挙げられていないことも反省すべき点と認めなければならない。中長期的な視野で見れば有意味ではあると思われるが、フィールドで得られた資料の活用の方向性に関する検討を行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度についても、コロナが不確定要素として残るため、フィールドワークは今年度同様限定的であると想定せざるを得ない。したがって、文献調査およびそれに基づく基礎資料整理にウェイトを置いた形での研究の遂行が望ましいと思われる。特に、1997年河川法改正に関与した河川官僚のうち、資料数の多い尾田栄章と竹村公太郎に注目して、今年度まとめた近藤徹と青山俊樹との対比なども行いつつ、河川官僚の中での考え方の変化などを概観する作業を進めたい。また、フィールドワークで得られた資料を整理し、やや散漫になってしまっている研究の方向性を改めて見直す作業も進める必要がある。
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Causes of Carryover |
コロナの影響でフィールドワークの実施が制限されたことおよび学会大会がオンラインで実施され、旅費の使用がなかったことが要因である。次年度も、できればフィールドワークへの充当をしたいところであるが、コロナの終息が見えてこないので、消化できるかは不確実性が大きい。
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