2019 Fiscal Year Research-status Report
宗教的人種化の社会的条件―ネイションと他者化のダイナミズムー
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18K01961
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
鶴巻 泉子 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (70345841)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | カタルーニャ / ナショナリズム / ムスリム移民 / 人種化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はスペインとフランスにまたがる二つのカタルーニャ地域を例に,北アフリカ出身の移住者やその子孫に対する「宗教的人種化」のメカニズムとその規定要因を比較するものである。異なる国家に属しつつも共通のナショナリズム「カタルーニャ主義」を持つ両地域において,宗教的要素を通じた他者化のプロセスが,国家ナショナリズムと対抗ナショナリズム、そして両者の紛争的関係とに規定される様式に着目する。 本年度は特にスペイン側のカタルーニャでの調査、その統計と文献収集に力を入れた。2019年夏期にバルセロナ市での文献と資料収集、ジロナ市/サルト市での聞き取り調査と参与観察調査を行った。それを通じ、①スペイン側における「カタルーニャ主義」がフランス側の文脈と比較してどのような「他者化」ベクトルと紛争性を持つか、つまり統合イデオロギー/排除イデオロギーとしての「カタルーニャ主義」の検討を行うと同時に、②イスラムやムスリム移民がスペイン社会の中で持つ紛争性とイスラモフォビアの文脈について検討した。その結果、フランス側と比較して、スペインでは国家統合の問題で紛争性を持つのは「カタルーニャ主義」であり「イスラム」ではないこと、そしてスペインの文脈においては、「イスラム問題」と「移民問題」とが切り離されて議論されていることがフランスと比較した時の最大の特徴であることを確認した。またスペインにおいては、イスラム過激派によるテロ事件がネイションをめぐる集合的記憶の中で議論されないことも確認した。移住者から見た「人種化」は、「イスラムをめぐるネイションの記憶」ではなく、「スペインとモロッコ」「カタルーニャとモロッコ」をめぐる関係史において論じられる。調査成果の一部は既に発表した(:鶴巻泉子「『イスラモフォビア』とナショナルな文脈化」『Autres』11号, 2020, 19-34)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年2月ー3月に、スペイン側カタルーニャで長期のフィールド調査を予定していた。その調査で、スペイン側での長期の聞き取り・参与観察はほぼ終了する予定であったのだが、新型コロナウイルス感染拡大のため、渡航そのものを断念せざるを得なくなった。現地での調査日程半分が失われたことにより研究計画を大きく見直さざるを得ない状態である。
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Strategy for Future Research Activity |
この研究がフィールド調査を基盤にした実証研究であることをふまえ、研究の柱となる調査を続行しなければデータが揃わないことを考えれば、現実的な方法としては、研究期間の延長も視野に入れた上で新型コロナウイルスの感染拡大が一段落してから調査を続行することが考えられる。ただし、スペインやフランスなどでの今後の新型コロナウイルス感染拡大はまだ見通せないことから、とりあえずはこれまでどおり研究レビュー、文献資料分析と、これまでにフィールド調査で得たデータ分析、そしてこれからはオンラインでのインタビュー可能性も探りながら、研究を続行していきたい。
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Causes of Carryover |
昨年度3月の新型コロナウィルス感染拡大により調査が実行不可能となったため。現在の予定では2020年度2-3月に調査を延期,その調査費用に充当する。
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