2019 Fiscal Year Research-status Report
被災者はなぜ罪悪感を抱くのか?―避難の困難さと社会的承認に関する実証的研究
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18K01963
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
高橋 征仁 山口大学, 人文学部, 教授 (60260676)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 生存者罪悪感 / 原発事故 / 社会的承認 / 沈黙のらせん / 自己欺瞞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、東日本大震災の被災者にみられる罪悪感について、その社会的背景と変容プロセスを実証的に明らかにし、そのうえで社会的承認による罪悪感の克服の道を探ることにある。 本研究では、まず、こうした被災者の罪悪感の成り立ちについて、①原初的な共同性の繁栄(社会心理学的視点)、②社会的交換における不均衡(贈与論的視点)、③否定的な世論の内面化(メディア論的視点)という3つの水準から分析し、それぞれの特質と関連性を明らかにしていく。そして次に、それぞれの水準の罪悪感に対して、社会的承認がどのような影響を与えるのか、検討を行うこととした。 令和元年度の研究においては、前年度の研究を踏まえ、個々人の生存戦略とムラの存続という共同利害によって、「沈黙」や「罪悪感」が発生しているのではないかという仮説を中心に検討を行った。こうした観点は、被災者の「沈黙」や「罪悪感」をたんに社会的抑圧の結果とみなすのではなく、個人的利害や自己欺瞞も含めた戦略的側面を有するものへと大きく転換するものである。後者の観点が有効なのは、移住や転職によって社会的環境を大きく変化させた被災者は、しばしば「沈黙」を「雄弁」に、「罪悪感」を「有能感」へと転換することがあるからである。 こうした点に関するインフォーマント調査を踏まえて、年度末にはweb調査を実施する予定であったが、新型コロナ感染症のために、web調査は断念せざるを得なかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度の計画では、年度末に東日本大震災に関する大規模web調査を行う予定であったが、新型コロナ感染症によって、人々の意識や行動に大きな変化が生じていると考え、いったん調査計画を中断した。しかしながら、理論研究やインフォーマント調査を通じて、限られた社会的資源の中での生存戦略という新たな観点を得ることができた。またこうした観点が、新型コロナ感染症をめぐる沈黙や社会不安を説明するうえでも有効ではないかと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、東日本大震災の被災経験に関する「沈黙」や「罪悪感」を社会的抑圧の観点から説明しようとする傾向が強かった。しかし、令和2年度の研究においては、限られた社会的資源の中での生存戦略という観点から、「沈黙」や「罪悪感」をとらえ直してみることにしたい。さらに、こうした観点は、新型コロナ感染症をめぐる「沈黙」や「罪悪感」にも応用できるのではないかと考え、この点に関する被災経験の比較研究を行う予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症対策のために、年度末に予定していた出張およびweb調査を実施できなかった。そのため、289,954円の未使用額が発生した。これらの金額については、令和2年度のweb調査において使用する予定である。
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Research Products
(3 results)