2021 Fiscal Year Research-status Report
公害患者運動の実証的・理論的研究-「地球環境問題」の原点としての「公害」再考-
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18K01968
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
江頭 説子 杏林大学, 医学部, 講師 (20757413)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 公害患者運動 / 大気汚染公害 / 大気汚染公害裁判 / 公害反対運動 / 地域再生 / 公害問題 / 環境問題 / 地球環境問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の研究成果である、「住民運動としての公害反対運動と労働運動-公害防止倉敷市民協議会と水島地区労を事例として」(法政大学大原社会問題研究所/鈴木玲編、2021『労働者と公害・環境問題』法政大学出版局)に引き続き、千葉大気汚染公害を事例とした研究に取り組んでいる。旧川崎製鉄(現JFEスチール)の公害発生当時から現在に至るまでの公害への対応に関する検討をふまえて、2021年度は旧川崎製鉄千葉労組に焦点をあて、地区労や他の運動組織等との関係性について、文献・資料調査をもとに検討した。その目的は、「資本の論理」と「生活の論理」の二項対立の論理を乗り越える理論を構築することにある。 また、公害患者運動の実証的研究として、「倉敷市公害患者と家族の会」(以下、「患者会」)を事例として、組織化 (資源動員構造)、政治的機会構造、文化的フレーミングの視点からの分析を行っている。患者会の前身は、「倉敷市公害病友の会」(以下、「友の会)である。「友の会」の結成は、患者であるとともに公害による被害者であることを可視化させた公害被害者の組織化への第一歩であった。そして名称を変えた「患者会」は、公害被害による公害患者であることを認識させ、公害患者運動の主体としての自覚を芽生えさせた。名称を変更した契機は、倉敷市が市条例を廃止する方針を打ち出したこと、補償法の地域指定が廃止されることに対する危機感にあったが、その名称変更は、運動の主体が公害患者にあることを自覚させ、公害患者として明確に自立し、闘う組織へ変化するという大きな意味があった。さらに、「公害地域の再生」というフレーミングの再解釈を試みている。本研究の成果を、「『倉敷市公害患者運動と家族の会』の軌跡と公害地域の再生(仮)」(除本理史・林美帆編、2022『「地域の価値」をつくる-倉敷・水島の公害から環境再生へ』東信堂)として2022年12月までに刊行する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
文献・資料をもとにした千葉大気汚染公害を事例とした研究に取り組み始めたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、現地調査が未だ困難であるという物理的な制約や、感染症医療人材養成事業の実施、早期体験学習の代替プログラムの立案・実施という時間的な制約により、十分な研究を進めることができなかった。よって、研究期間を1年延長することとした。 また、筆者は本研究の「公害」から「環境」へ、そして「地球環境問題」へと視点が課題された背後に潜む資本主義の力学と理論を明らかにすること(公害患者運動の実証的・理論的研究)から得られる知見は、新型コロナウイルス感染拡大の被害を可視化し、派生的被害を発生させないために有用になると考えている。現時点で議論されている、「感染予防」か「経済の発展(維持)」かという議論は、大気汚染公害が多発した1960年代の「公害予防」か「経済の発展」かという議論と共通する要素がある。また、新型コロナウイルス感染拡大の長期化と深刻化は、単なる影響にとどまらず被害となることが予想される。公害問題に関する研究の蓄積により明らかとなった被害構造の関連図式、派生的被害(二次的被害)によるアプローチが、新型コロナウイルス感染の被害構造を明らかにすることに有用となるという視点からも思考している。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は本研究の最終年度となる。本研究では、公害患者の集合行為としての公害患者運動に焦点をあて、実証研究と理論研究を通して、公害患者運動の地域的展開の諸相と公害患者運動を支えた理論的な背景をあきらかにすることに取り組んできている。そこで、これまで実施してきた調査、文献研究等について実証研究と理論研究の双方での研究のまとめにとりかかる。 実証研究においては、公害患者運動の展開過程、特に公害裁判後の運動がなぜ継続したのかについて、水島、尼崎、西淀川における公害患者運動の展開の分析をまとめる。その目的は、公害患者運動、今日まで何を「問い」続け、その「問い」が意味することを明らかにすることである。そして本研究の最終的な目的である、公害問題に立ち向かった公害患者運動の経験から学び、二度と公害が起こらないように生かすための方法論を明らかにするとともに、公害患者運動を運動論として理論化することを試みる。
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Causes of Carryover |
2021年度実施予定の調査が、新型コロナウイルス感染症拡大のために実施することができなかったため。また、学会がオンラインでの実施となったため交通費が発生しなかった。
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