2020 Fiscal Year Research-status Report
美容を目的とする医療の国際比較--権力関係と親密性
Project/Area Number |
18K01983
|
Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
谷本 奈穂 関西大学, 総合情報学部, 教授 (90351494)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 身体 / 美容 / 整形 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は「医療化」が進展する社会において、美容を目的とした医療(美容外科手術、およびメスを使わない美容医療、以下合わせて「美容医療」と呼ぶ)の実態を調査すること、美容医療の社会的意味とそのメカニズムを明らかにすることである。方法には多角的な研究手法を組み合わせた混合研究法を用いることにしており、アンケート調査、インタビュー調査、メディアの内容分析(テキストマイニング)、文献調査を組み合わせた方法を採用している。 さて、2020年度は、これまでの調査の分析、および美容医療の実態調査(国内)、韓国での美容整形クリニックのフィールド調査を行い、それらをまとめて総括をする予定であった。そして研究成果発表の場として、メルボルン大学にて女性の身体と美容に関するワークショップを計画していた(渡航先にも許可を得ていた)。しかし、コロナウィルスの蔓延により、国内の医療機関への調査、韓国へのフィールド調査、およびメルボルン大学での研究成果発表、いずれも実行できなかった。残念ではあったが、状況を鑑みて、いずれも次年度に持ち越すことにした。 こういった状況下ではあったが、可能な限り研究を持続し、「美容整形は個人的なことか?――身体の社会学、言説、テキストマイニング」を石田佐恵子他編『基礎ゼミ メディアスタディーズ』(世界思想社)に、「主婦規範と女性のネットワーク:嗜好品としてのサプリメント」を小林盾編『嗜好品の社会学--統計とインタビューからのアプローチ』(東京大学出版会)に執筆した。いずれも、研究目的に合致した論文執筆を行なっているといえる。かつ、書籍として刊行されることで、社会的なインプリケーションを持つ、意義のある実績であると考える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」でも述べたとおり、2020年度はすでに行ってきたアンケート調査の分析、国内の医療機関への実態調査を、韓国にて美容整形クリニックのフィールド調査を行い、総括をするつもりであった。また、成果発表として、メルボルン大学にて女性の身体と美容に関するワークショップを行うことも予定していた。だが、医療機関はコロナウイルスによる混乱のため、国内外を問わず混乱しており、調査は不可能であった。またメルボルンへの渡航も困難となった。当初の研究計画より遅れが生じていることは否めない。 ただし、インターネットを通じたウェブ情報のうち、美容整形について書かれたツイッター言説を、プログラミングを用いて収集し、テキストマイニングを行った研究成果については、2020年4月に刊行された単行本の一編になっている。また、美容整形を行った女性たちのインタビューデータを参考にして、美容用のサプリメントを日常的に摂取する女性たちの分析も行い、2020年12月2日に刊行された単行本の1編となっている。 さらに、できる限りの調査を行なって、美容医療経験者3名、美容医療に携わる医師へのインタビューは行い、次年度以降の研究成果に結びつくようなデータは得た。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、最終年度にあたることから、研究の総括を行いたい。すでに行ってきたアンケート調査の詳細な分析を通して、美容を目的とした医療の実態を調査し、美容目的の医療の社会的意味とそのメカニズムを明らかにする。 もし、年度内にコロナウィルスによる混乱が収束すれば、2019年度の調査で若い女性が韓国の美容整形の影響を受けていることがわかったので、韓国にて美容整形クリニックのフィールド調査を続行したい。また、すでに知己を得たメルボルン大学にて女性の身体と美容に関するワークショップを行うことも予定している。ただし、コロナウィルスによる混乱が継続し、海外渡航が困難な場合も考えられる。その場合は、国内での調査票調査に切り替えて、より詳細で広範囲にわたる調査を行う。2019年度に「メディア分析」を行なったが、ウェブ言説の影響の大きさは、近年より大きくなってきたことを鑑みて、大規模なSNSへの調査を行う。 国内・国外の情勢を見ながら、二つのパターンを考えているので、その都度、柔軟に対応していきたい。
|
Causes of Carryover |
当初予定していた、日本国内における医療機関へのインタビュー、韓国における医療機関へのフィールド調査、研究発表としてメルボルン大学でのワークショップの三つともが、コロナウィルスの世界的蔓延により、どうしても実施することができなかった。予定を変更して研究費を使うよりも、予算を次年度に回して、計画していた通りに研究費を使う方が有効であると判断した。
|