2019 Fiscal Year Research-status Report
外国人技能実習制度の課題と可能性―環境保全型農漁業の技能移転を焦点とする実証研究
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18K01985
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Research Institution | Notre Dame Seishin University |
Principal Investigator |
二階堂 裕子 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 教授 (30382005)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
駄田井 久 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (60346450)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 外国人技能実習制度 / 環境保全型農漁業 / ベトナム / 技能移転 / 国際労働力移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、外国人技能実習制度を活用した環境保全型の農漁業の技能移転に焦点をあて、これを媒介としたベトナムと日本の両国における課題解決の可能性を追究することを目的とする。 令和元年度は、以下の調査を実施した。第1に、ベトナムにおける環境保全型農業の現状に関する情報収集のため、ベトナムを2回訪問した。まず1回目は、ベトナム国家大学ホーチミン市人文社会科学大学の地理学者らと研究会を開催し、現地の環境保全型農業に対する社会動向などについて情報交換を行った。2回目は、コショウやカカオの生産地であるドンナイ省を訪れ、有機農法実践家を対象に、有機農法の採用に至った経緯と成果に関するインタビュー調査を行った。また、有機農法を採用している農家と採用していない農家の両者に対し、有機農法に対する意識と今後の展望について、質問紙調査を行った。 第2に、日本の農業分野に派遣された外国人技能実習生の就労状況を把握するため、愛媛県内において有機農法によるミカンの栽培と加工、販売を行う地域協同組合で、フィールドワークを実施した。この組合では、ベトナム人とフィリピン人の技能実習生を受け入れながら、6次産業化を精力的に進めていることから、技能実習生の就労・生活状況や地域住民との関係、有機農業の実施状況などについて、参与観察を行った。このほか、香川県内のベトナム人技能実習生就労先農家において、インタビュー調査を実施した。 第3に、環境保全型農業の推進に関して、国際比較の視点から中国に注目し、農業・畜産業を主要産業とする内モンゴル自治区を2回訪問した。1回目は、現地の大規模な畜産・乳製品製造会社と環境保全型農業を実践する農家において、インタビュー調査を行った。2回目は、内モンゴルの持続可能な発展をテーマとした国際会議(内蒙古農業大学主催)に出席し、研究報告および各国の研究者らとの意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度は、上記の通り、ベトナム、日本、および中国における調査研究を実施した。 まず、ベトナムでの研究活動については、ベトナム人研究者らとの連携を進めることができた。現地で調査を実施するにあたっては、日本以上にそうした伝手の存在が調査の成否を左右するといっても過言ではない。一方で、私たちが有している人的資源や情報が彼らにとって貴重であるという側面もあり、今後、研究を発展させるうえで、この連携が両者にとって大きな意義をもたらすだろうことを確信している。また、現地の有機農法実践家と面識を得たことにより、ベトナムの農業をめぐる課題と展望について貴重な情報を入手することができたほか、今後の調査の推進に向けた足がかりを築くことができた。 次に、日本での調査について述べると、ベトナム人とフィリピン人の技能実習生を受け入れている愛媛県内の地域協同組合において、フィールドワークを実施したことにより、彼らの就労状況や地域住民との関わりの様子に肉薄することができた。また、香川県の農家を対象に、ベトナム人技能実習生の受け入れによる環境保全型農業について調査を行った結果、技能実習生と受け入れ農家の関係のありかたや、技能実習生が修得するべき技能について、多くの知見を得ることができた。さらに、帰国したベトナム人が、母国で環境保全型農業を実践しているという情報も得ることができ、日本で修得した技能移転の可能性を検討するうえで、重要な示唆を得ることとなった。 さらに、中国の内モンゴル自治区における調査と国際会議への出席により、環境保全型農業の実践に関して視野を広げるとともに、国際比較の視点を得ることができた。 以上の調査から得たデータの分析を通して、今後さらに検討すべき研究テーマがより明確となった。よって、本研究はおおむね順調に進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、これまでの知見をふまえたうえで、主として以下の3点に関する調査研究を実施し、外国人技能実習制度を通じた環境保全型農業の技能移転の可能性について、さらに探究したい。 第1に、ベトナムにおける環境保全型農漁業の現状、さらに技能実習生による技能移転をめぐる課題を追究するため、ベトナムの地理学者との共同研究体制を整える。今後、彼らとの連携による調査を開始すべく、まず、より具体的な調査の対象と方法、調査項目などについて十分議論し、認識の共有を図りたい。加えて、ベトナムの農村における調査をさらに発展させる。ドンナイ省の有機農法実践家とその同志を対象とした調査のほか、日本から帰国し、ダナン市で環境保全型農業の実践を試みている元技能実習生を訪問し、その成果と今後の展望について情報を収集する。 第2に、日本の農業分野に派遣されたベトナム人技能実習生と受け入れ企業を対象に、現場での就労と技能修得の現状について、引き続き参与観察とインタビュー調査を行う。その際、特に今日の新型コロナウイルス感染症の感染拡大を鑑み、この状況が農業経営や外国人技能実習生の受け入れにいかなるインパクトを与えているかについて明らかにしたい。こうした日本での調査も、ベトナムの地理学者らとの協働を視野に入れている。 第3に、地方自治体の技能実習生受け入れ政策のあり方を検討するため、これまで調査を行ってきた岡山県美作市に加え、同県総社市を対象に、調査を実施する予定である。同市は、これまで日系ブラジル人の活用による製造業の発展に力を入れてきたが、近年、ベトナム人技能実習生の積極的な受け入れへと大きく舵を切り、そのための体制整備に着手した。総社市との比較もふまえつつ、自治体に求められる施策について考察する。 以上の調査研究の成果については、今後、学会報告や論文執筆などによる公表を、より積極的に進めたい。
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Causes of Carryover |
令和元年度末に、ベトナムへ出張し、現地の地理学者との共同研究に向けた打ち合わせを行う予定であったが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、ベトナム入国が禁止されたため、出張を中止せざるを得なかった。そのため、旅費として計上していた費用の分が次年度使用となった。 次年度は、ベトナムの研究者との連携を深め、現地でのフィールドワークをさらに充実させる予定であり、その際の旅費として、前年度からの繰り越し分を使用したい。
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Research Products
(12 results)