2021 Fiscal Year Research-status Report
外国人技能実習制度の課題と可能性―環境保全型農漁業の技能移転を焦点とする実証研究
Project/Area Number |
18K01985
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Research Institution | Notre Dame Seishin University |
Principal Investigator |
二階堂 裕子 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 教授 (30382005)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
駄田井 久 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (60346450)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 外国人技能実習制度 / 環境保全型農漁業 / ベトナム / 技能移転 / 国際労働力移動 / 外国人労働者受け入れ政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、外国人技能実習制度を活用した環境保全型の農漁業の技能移転に焦点をあて、これを媒介としたベトナムと日本の両国における課題解決の可能性を追究することを目的とする。 令和3年度も引き続き、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けることになった。そのため、本研究の主軸を成すベトナムでのフィールドワークは、実施延期を余儀なくされた。一方、国内での調査については、コロナ禍における技能実習生の受け入れ実態を把握するべく、感染状況をにらみながら可能な範囲で以下を実施した。 まず、香川県内で環境保全型農業を営む農家に、技能実習生に対する技能移転の現状とそれに対する考えや受け入れをめぐる課題などを尋ねた。また、そこで就労する2人のベトナム人技能実習生から、日本で農業に従事する理由や実習終了後の見通しなどを聴き取った。本調査より、受け入れ側の農家が試行錯誤しながら技能実習生への技能移転を試みていること、また、技能実習生が帰国後、日本での就労経験を活用したいと考える一方、母国で具体的にどのような技能や知識をどのように発揮しうるかが現時点では曖昧で、暗中模索している状況が見て取れた。よって、技能移転の実現には、受け入れ側の事業者に対する技術指導のための研修と、技能実習生の帰国後の就労支援や継続的な技術指導の仕組みづくりが必要であろう。 この他、技能実習生のホスト社会として、岡山県美作市と笠岡市の職員を対象にインタビューを実施した。美作市では、ベトナム人技能実習生の受け入れを産業政策の一環として位置づけ、積極的な受け入れ態勢の整備を進めている。一方、笠岡市では、2021年4月から笠岡警察署と笠岡市協働のまちづくり課の連携により、多文化共生事業が始動したばかりである。こうした自治体の外国人受け入れ政策のありようが、技能実習制度をめぐる諸問題といかなる関連をもつかについて今後検討したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度も、前年度に続いてコロナ禍の影響を免れず、国内外における調査の中止や大幅な制約を余儀なくされた。 当初、ベトナムにおけるフィールドワークによって、ベトナムにおける環境保全型農漁業の現状、さらに技能実習生による技能移転をめぐる課題を追究する予定であった。けれども、出入国規制のため、現地調査によるデータ収集が実現に至らなかった。 また、日本の農業分野に派遣されたベトナム人技能実習生と受け入れ事業者を対象とした調査も、十分に実施できたとは言い難く、本研究の目的を達成するためには、引き続きデータ収集と分析・考察を進めることが欠かせない。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、国内外におけるコロナの感染動向に鑑みつつ、主として以下の3点に関する調査研究を実施し、外国人技能実習制度を通じた環境保全型農業の技能移転の可能性について、さらに考察を加えたい。 第1に、日本の農業分野に派遣されたベトナム人技能実習生と受け入れ企業、および技能実習生の受け入れ機関を対象とした聴き取り調査を行い、現場での就労と技能修得の現状についてデータを収集する。特に、コロナの影響を受けてどのような弊害が生まれ、それらに現場の関係者がどう対処しているか、あるいは対処しきれていないかを明らかにしながら、技能実習制度の課題を検討する。 第2に、地方自治体における技能実習生受け入れ政策の現状を探るため、岡山県美作市と笠岡市に加えて、総社市を対象とした調査を進める。同市では、美作市と同様、労働力確保のため、ベトナム人労働者の受け入れを精力的に進めており、自治体の産業政策や多文化共生政策のあり方を考察するうえで注目に値する。また現在、ベトナム人住民が市内の農地を借り受け、農業経営に乗り出そうとしており、こうした動きも見逃せない。 第3に、ベトナムにおける環境保全型農漁業の現状、さらに技能実習生による技能移転をめぐる課題を明らかにするため、ベトナムの研究者らと連携しつつ、情報を収集する。出入国規制がさらに緩和されれば現地でのフィールドワークを実行するが、渡航が困難である場合を想定して、オンラインを活用した情報交換も並行して進める。 さらに、上記の調査から得た情報を土台として、より積極的な研究成果の公表に努めたい。
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Causes of Carryover |
国内外における移動制限のため、調査の実施に要する旅費および謝金が当初の見込みよりも大幅に低く抑えられる結果となった。また、成果報告や情報収集の場である学会大会がオンラインによる開催へ変更されたことにより、そのための旅費として計上していた費用の分も次年度使用となった。 これらの費用は、国内における調査のための旅費とする。このほか、聴き取り調査の際の音声データを文字化して保存するため、テープ起こし作業にともなう費用として前年度からの繰り越し分を使用したい。
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